[人工生命の美学]展示解説

東京国際美術館(多摩)
1993年6-8月

← 関連文書のページへ
← ツノヤハズのページへ

【ツノヤハズの飼育】


 戦略ゲ−ムのマップのような世界に繁殖するのは[ツノヤハズ]というA-lifeです.個体の群れの,世代を越えた振舞いを再現するのがこのプログラムの目的です.この世界を覗くと種分化や絶滅を含む[進化]を観察することができます.

 ツノヤハズは有性生殖をおこないます.つまり,♂は隣接する♀と交尾し,♀は周りに産卵することによって世代が繰り返されます.ツノのある派手なのが♂で,優しい体型のが♀です.ツノヤハズの♀は自分の周囲に卵を産んで次世代を残しますので,どんどん殖えます.しかし,泳いだり飛んだりできないので,海や河を渡っていくことができません.また生息可能な高度を低く設定しておくと,高い山を越えることもできません.でも氷河期がきて海水面が下がれば,陸続きになった島へ分布を拡げたり,間氷期の温暖化で峠を越えることがあります.こうして処女地の開拓に出た一族が運よく根付いたとしても,気候が元に戻れば孤立し,元の群れとは別の進化史をたどることになるのです.

 また,連続した広い地域を制覇した種においても,生息困難な箇所が境になって実質的な交雑個体群が現れ,それらがやがて別種になっていきます.

 ツノヤハズの生殖のル−ルには,1)遺伝すること,2)突然変異すること,3)かけ離れた個体間では交雑が起こらないこと,の3つ前提が組み込んであります.この単純な前提を置くだけで,結果として[種分化]が起こるのです.この場合の種分化は,個々の個体群の[異なる環境への異なる適応]によってではなく,種個体群の[粘着性の破綻]によっておこるもので,実在の動物のオサムシなどに見られる現象を説明できると考えられます.

↑ 文頭へ ↑