昆虫学会56回大会講演要旨

山口大学農学部(山口)

1996年3月


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【ツノヤハズの側所的種分化と交雑帯】

 現実の生物に対して観察されている様々な種現象は,不完全な(突然変異のある)遺伝機構を具えた両性生殖個体群であれば仮想的な集団でもほぼ同様に生起する.今回は弱分布障壁の下での現象について実験に基づいて考察する.

 弱い障壁として[短期的定着は可能だが,長期的には絶滅の可能性が高い地域]を想定する.そのような地域Bを,好適な(絶滅の危険が十分小さい)地域AとCの間に配置すると,個体群はA→B→Cと容易に分布を拡大できる.その後Bでは,確率的な絶滅がおこる一方でAとCからの流入があるため,かなりの個体数が常に分布する状況が続く.

 このときBを通じてのAC間の遺伝的交流は様々な程度に妨げられており,Bが障壁として十分に機能すると側所的種分化が進行する.

 ランダムな変異の蓄積により,両群の差異は世代を経るに従って顕著になり,やがて2種に分化するが,その過程でBでは混血個体がしばしば観察される,わゆる交雑帯を形成する.

 このような側所的種分化において地域Bが十分な障壁として機能する条件は,地域の生存率そのものではなく,生存率の隣接地域との格差であることが実験によって示された.

 現実の生物における交雑帯の存在は[不完全な異所的種分化の後の二次的接触]と解釈されることがあり,その過程は実験的にも再現できる.しかしそれにはメ障壁をタイミングよくとり除くモ必要があり,一般には交雑帯は側所的種分化の過程にある事を示唆すると思われる.

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