異所的種分化未遂による交雑帯


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はじめに

 別頁に示したように,側所的種分化の過程で[交雑帯]がしばしば認められます.しかし現実の生物で交雑帯が認められた場合,異所的種分化のシナリオに沿って解釈されることが多いようです.すなわち,種分化の前に障壁画なくなってしまい,中途半端に分化した個体群が再接触した結果生じたと解釈されるわけです.

目的

 異所的種分化の過程の途中で操作することで,種分化不成立の状況を再現し,交雑帯が生じる状況を再現します.

方法,設定

 別掲の異所的種分化の事例で種分化したのは10,400〜10,500世代間でした.そこで種分化直前である10,400 世代で陸橋を再開し,二個体群を接触させます.

  • マップ:Oval.trr
  • 生存率:0.68, 0.8, 0.74, 0.68
  • 変異率(許容差異):0.01(5), 0.01(5), 0.01(5), 0.001, 0.001
  • 観察世代:10,400 〜 10,900
  • 操作:実験開始時点の10,400 世代で海退とする.

    結果

     ここでは元の中の島の個体群を中個体群,南の島の個体群を南個体群と呼ぶことにします,中個体群は実験開始してすぐに北部にも分布を伸ばします.

     実験開始時点で両個体群を種分化直前にまで分化させていた(別掲の実験で種分化の根拠となった)形質は生理形質です.また外見的には翅鞘色彩に差がありました.前胸色彩にも違いがありますが,中個体群の変異の中には南個体群と同じ状態のものもいました.

     実験開始直後(10,404世代),陸橋上で接触した雌雄個体には,生理形質許容値以上の差があり,当然,交雑が起こりませんでした.すなわち,全体として共通種であっても,ある局地的には別種のように隔離機構が働くわけです.

     その後,陸橋部分は両側から供給される個体が入り交じって潰し合う状況が続きますが,10,450世代ころには,中個体群のなかでも南個体群と交雑可能な個体が前線に出るようになり,交雑個体と考えられる個体が見出されるようになりました.

     その後交雑が進むことと,両個体群内で変異が増加するため10,590世代頃には中〜南個体群および交雑帯は判然としない状態となりました

    実験経過参照

     要するに,両個体群は二次的に混血し,その過程で交雑帯(帯でも Zone でもないが)が見られました.

    考察

     [異所的種分化未遂]のシナリオでも,予定どおりの事が起こりますが,1) 両群で明瞭な差異が発達していており,2) 交配機能は破綻していない,ちょうどその段階で,3) 障壁の解消がおこる,という都合の良い条件が前提となります.

     しかも交雑帯の存続期間はごく限られたものです.障壁の消失という外的な変化によって一連の変化が起こるわけで,それは最終的には分布域全体の差異が消失する方向に進みます.交雑帯は,その過渡的な一段階として見られる,というわけです.

     交雑帯の形成には上記の 1, 2 を満たすだけで十分,3 を含む[異所的種分化未遂]のシナリオを想定する必要はないのではないでしょうか?

     別掲のように,交雑帯は側所的種分化の過程でしばしばみられます.側所的種分化自体が,分布域の広さと移動能力の関係で 1, 2 が慢性的に成り立つ状況を想定しているわけですから,交雑帯の形成にはこれだけで十分です.交雑帯の形成は側所的種分化の一段階(そのまま種分化が成立するかどうかは別問題)だとするのが妥当ではないかと考えられます.

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