'88年2号 '88.2.20発行

copy:三浦雅子
photo:管野秀夫


TETSUYA KOMURO
FACE DANCE
FILE-1
小室哲哉 VS 小室みつ子

異次元への夢を紡ぐ2本の糸

今や、日本の音楽シーンを代表する、若手No.1アーティストとなった小室哲哉。TM NETWORKのサウンドの鍵を彼が握っているのはもちろんいうまでもないが、もうひとり、TMを語るうえで忘れてはならないのが、彼らの詞のほとんどを手掛けている作詞家・小室みつ子の存在である。あたかも双生児のようにひき合いながら織りなすファンタジックな夢は、軽々と時間の壁を超えていく。小室哲哉--“FACE DANCE”第1回。夢が踊る。


 小室みつ子。山羊座、A型。慶応大学法学部卒業。'80年、シンガー・ソングライターとしてデビューし、4枚のアルバムを発表。'84年には作家としてのデビューも果たす。著作、多数。このところTM NETWORKの曲に詞を提供し、作詞家として脚光を浴びている。
 小室哲哉のプロフィールはもはや必要ないだろう。
 偶然にも同姓を名乗る作詞家と作曲家の両氏。TM NETWORKサウンドの鍵を握る2人は、どんな形でその世界を語り合い、コンセプトを煮詰め、作業を進めているのか。そしてこの2人のコンビネーションは、これから先のTM NETWORKをどんな形でクリエイトしていくのか。
 2人の会話の断片から、いくつかの秘密がこぼれ出してくる--。


ウツが歌いやすい詞、ということを優先に考えて作詞します


--導入部からいきなり下世話な質問で恐縮ですが、同姓ということである種の誤解を世間に生んでしまっているという(笑)。ま、つまりどういう関係なのでしょうか、とね。
みつ子「母親なんです」
哲哉 「1歳の時の子供で」
みつ子「そう、もうよく出来た子供で」

--(笑) 哲哉 「だから最初は隠してたんですけどね。デビューの頃から詞は作ってもらってたけれど、違う名前にして」

--西門加里さんというペンネームですね。
みつ子「そうなんです」

--カーリー・サイモンのファン、ってコトですか?
みつ子「そうなんです。と、軽いネ、簡単に言われてしまうと。実はもう中学の時からズーッとズッとぜんぶLP買ってました」

--でも、それを本名で出そうということになったキッカケは?
哲哉 「僕は知らないですねエ。うちのチーフ・マネージャーがある席で言ったような……?」
みつ子「いや、ディレクターだったような。今度、本名でやらないかって。“All-Right All-Night”の時でしたっけ」

--で、やっぱりそのときまで隠していたのは、詮索するファンにいちいち説明するのが面倒臭かったから?
みつ子「うん、私の方には何も支障なかったんですけどね」
哲哉 「だから逆に、西門加里さんってどんな人ですか? って言われたときに、本名は小室みつ子で……となったときの方が、ウソ!? 小室? ってなるでしょ。なんで隠してるんですか? って。だからそういうふうになるよりは最初から本名を出す方がいいってことになったんですね」
みつ子「それに私の方もTMに詞を書く前から“小室みつ子”で本を書いていたから」
哲哉 「レコードも出してるしね」

--あ、そのときから“小室みつ子”だったんですか。
みつ子「そう。もう7年も前の話だけど。学生の時から私、作詞と作曲をして自分で歌ってみたいな、と。……でも、書くのが好きだったから、途中で小説の方に興味が出てきて、止めちゃったんですよ」
哲哉 「て、わけで、才女ですよね、素晴らしい。普通の女の子とかが憧れてる職業をほとんど網羅してますよ」
みつ子「そんなことないヨ」

--今のコンビってのもたぶん、みつ子さんが自分で歌ってたから、うまく伝わり合うってところが大きいのかな。
哲哉 「ただ、最初は内容よりも英語がわかる人っていうか。カッコいい英語の入れ方ができる人ってところで頼んだのだけど」
みつ子「そうね、最初は私だけってわけじゃなかったし、どういうものが出来るかもわからなかったし」
哲哉 「ま、最初はそのくらいの気持ちでしたね。英語のセンテンスを考えてもらったりもしたし、コーラスだとか、詞じゃない部分も含めて。で、3枚目《GORILLA》くらいからだんだんコンセプトみたいなものも話すようになって。レコーディングの制作の最初の段階から詞も平行して考えてもらうようになってきた」
みつ子「でもやっぱり、ある程度は自分で歌えないと書けないですね、TMの音楽って詰まってるでしょ? 今はだいぶ違ってきたけれど、最初のころは16分音符の羅列で。あの中でリズムとかアクセントをちゃんとハメていくには自分で一緒に歌えないと、さすがに……最初はもう、苦労しましたね」

--するとメロディーも取れるんですね、TMって譜面書かないでしょ?
みつ子「そう、いつも私、譜面取ってるんです」
哲哉 「そう、譜面も書けるんですね、才女だから」(笑)
みつ子「いつもね、ハイ、コレ! とか言ってカセットだけ渡されるから私が一生懸命、耳でとって譜面にするんですよ。でないと私、作れないから、ヒドイんですよ」
哲哉 「そう、作りっ放しでね。で、メロディーとかも1番と2番で違ってたりするのもちゃんと直してもらってる」
みつ子「どっちが本当なんですか? って泣いたことありますよ」

--そういうときって、どっちをとるんですか?
みつ子「ボーカリスト優先ですね。歌合わせでウツが歌いやすい方を」

--哲哉さんは自分では譜面にしないんだ。
哲哉 「僕は、したことないですね」

--普通、作詞家ってそこまでするのかしら?
哲哉 「ま、ディレクターとかが間に入って譜面に起こしてるみたいですね。僕がだからTM以外で書くときも同じで、カセットで歌ったのをそのまま渡してる」

--すると誰かが苦労してるんだ。
哲哉 「この間、実はその苦労してる本人に会ったんだけど、だいたい、偉いディレクターがいて、その下に部下のディレクターってのがいるわけ。で、言われた。“1番と2番が違うんですもん”って」
みつ子「そうか、他の人にもそういうことしてるんだ(笑)」
哲哉 「あと、サビがハモってるからどっちが詞、かメロかわかんないんですよって」

--すると大変ですね、みつ子さんも。どのくらい時間がかかります?
みつ子「音符が少ないというか、ラップに近いものでなければすぐできますけどね。ちょっとリズムが混み入ってくると何度も聞き直さないと……」

--で、最近はその点少しラクになった傾向があると。
みつ子「そうね《humansystem》は前ほど早口にならなくてすんだというか」

--その早口ってのが特徴なんだよね、TMの。そういえば、作る側にとって言葉がいっぱい入るっていうのはラクなのか難しいのか、どうなんでしょうね。
みつ子「うん、それだけ言葉を考え出すことが多くなる分、単純には難しくなるけど、でも、そういんじゃなくて、書ける時にはすぐ書けるし書けない時は3回も4回も書き直しても書けないという……」

--ただ、聞くところによるとTMとしては、詞は全面的にみつ子さんへお任せであるとか。
みつ子「いや、任せるだけじゃない曲もありますよ。LPの中でもコンセプトになるような曲ってのはやっぱり、こういうのがいいなって哲っちゃんが言うし、それ聞かないと私も不安だから……」

--《humansystem》ならこのタイトルで、なんて感じで話し合うんですね。
みつ子「そうです。タイトルが最初にくる曲もあるからね。そのコンセプトを私が理解できないと困るからっていうので、それは話し合って」
哲哉 「まあ、メインの曲はそうだね。ただ、遊びっていうのじゃないけど、ライブでノル曲とかは任せて」

--とすると、曲にもランクがあるんですね。大切な曲とそうじゃない……。
哲哉 「うん、ありますね」
みつ子「それはあるかも知れない」
哲哉 「やっぱりタイトル曲は思い入れが強いしね。ただ、ひとつの言葉からも違う人間だから少しずつみんな違ったアイデアが出てくるから、それは途中の段階で話し合いをして。その方向は同じ方向にして……。だけど《Self Control》は僕が全然思わないものを出してきてくれたよね」
みつ子「あっ、あれは逆だったね」
哲哉 「僕はSelf Controlと言う言葉をどちらかというと守りの方で考えて言ったんだけど、みつ子ちゃんの方から破る方のアイディアが出てきたから、ああ、それもあるナ、とそこで初めて思ったという。で、“守る”と“破る”の二面性を出したんだけど。ま、そういう共同作業ってこともありますね」

--そのあたりのコミュニケーションはどんな形で?
みつ子「それは、哲ちゃんやスタッフ・サイドの中である程度コンセプトが固まって、曲ができ上がってから私の方へ話が来るんですけどね」
哲哉 「ま、そうですね。それほどおシャレな密会は、ない(笑)」

--それはレコーディング中のスタジオでする?
哲哉 「そう、けっこう、事務的です」
みつ子「だけど1〜2枚目のころは私、ほとんどスタジオに行ったことがなかったんですよ」
哲哉 「謎の人物……」
みつ子「電話でね、どうも小室です。あ、そうなんですか? 私も小室です。で、ココなんですけどねエ……ってやってた」

--電話で!? そんな細かいやりとりを?
みつ子「っていうか私、出不精だったから」

--それでも用は足せるんだ。
哲哉 「結局、間に何人も入っちゃうことになるけど」


ドラマというよりもワン・シーンの羅列に近い

--すると今のスタンスの取り方っていうか、この感じは《humansystem》でLAに行って以降?
みつ子「そう、あれでいろいろ話しやすくなった。私、割と人見知りする方だから苦手で」
哲哉 「LAではずっとメンバーと一緒の生活で、ずっといたから、ま、いろんな部分で《Self Control》の時とは違うでしょうね。やっぱり、みんなほとんどそうなってきているけど、サウンド優先。詞と曲が最初にあってレコーディングを進めるんじゃなくて、言葉もアレンジで雰囲気変わるから、音を聞きながら詞を作ってくって人がすごく増えてるんですね。TMの場合なんて特にそうだから、ハイ曲です、詞ください、では終わっちゃえないという状況がだんだん作られてきた。その結果、なるべくリアルタイムで、あれ? 変わったの?ってときに傍らにいてもらわないと困るってことになってきたという」
みつ子「デモと全然違っちゃうからね」
哲哉 「そういう意味で結果、だんだん傍らにいてもらうようになってきたということです」
みつ子「ほんとに最初って、SFっぽいのが好きだったから書いてみたいナ、って部分がたまたま微妙に哲ちゃんと合ったから始まったのに、今はもう、哲ちゃんがこういうのを作りたいんだ、というのを受けてますね」

--そこで意思がかみ合わないとツライことになりますね。
みつ子「ときどきね、私が誤解している部分があるのかも知れない。《humansystem》も最初、微妙に違ってたからね」
哲哉 「うん」
みつ子「哲ちゃんが書きたかったことを私が納得して、で、出てきたものがまた少し違ってて、それが歩み寄ったという」

--そこに性別の差も関係してきます? 異性だから視点が違っていいとかの。
哲哉 「うーん、これはみつ子ちゃんがどう思ってるかわかんないけど、男の作詞家に頼むんだったら自分で書こうって気持ちはすごく持ってるから。エゴまでいかないけど男の人の場合、自分を出そう出そうって部分が見えちゃう気がするね、やってないからわからないけど。それは勝手に思うんだけど。だからそこらへんではぶつかりたくないというか、特にTMの場合、3人がぶつかって何かできるグループじゃなくて、ゆだね合って協力し合ってるからね。3つの力がぶつかり合って何か1個というんじゃないし、そういうのは嫌う方だから。例えばケンカしてもいいモノを作ろうって気はまったくないし。だから例えば男の作詞家だったら、オレはこう思う、と言われたら僕は引いちゃう方だから、あっそうですか、って。で、そういうのはしたくないから自分で書く。ただ、女の人の場合だと自分を出すとかがないでしょ。それに僕にない部分でできたりするとけっこう素直に、あっなるほど、と思うところもあるし。あと、そんなに張り合う気も起きないでしょ? 戦う気というか、仕事だとムカつかないっていうか(笑)」

--するとケンカは?
みつ子「ないです、もちろん」
哲哉 「ほんとはあるかもしれないけど」

--みつ子さんにすると男の人が歌うって部分はプレッシャーになる?
みつ子「いや、私、小説でも男の子の主人公が好きで、どっちかっていうと自分も男っぽい方じゃないかと思ってるから。女々しいのって嫌いなんですよ。例えば、女の子にフラれても、ホントに奪い返したかったらみっともなくてもいいから奪い返すという。それは女々しいことでもカッコ悪いことでもない。それは正直なこと。そういう部分で書いていたいという」

--自分のために詞を書いていたころは?
みつ子「そのころでも、“僕”っていう一人称は好きだからたまに使ってたかな」

--でも、TMのとはまったく違う世界で書いていた?
みつ子「もちろん、そうですね。そいうか作詞家にはオリジナリティーはないんだから、あくまでもオリジナリティーはTMにあるんだから、作詞家は作詞家だと思ってるからね……」
哲哉 「でも、大きいですよね、歌詞の言葉遣いひとつでもウツのキャラクターまで変わってくるんだから。ま、先にイメージがあるから僕になってるけど、もしも“俺”って一人称使ってたら、またずいぶん、違ってくるんだろうね」
みつ子「そう、一度TM以外で男の子の詞を頼まれたことがあってね、“俺”にしてくれと言われたときは困っちゃった。全然違うんだなって思って」

--どんなオーダーにも対応しなくちゃならないってのは、しかし器用でないとつとまらない仕事ですね。
みつ子「いや、私は全然器用な作詞家じゃないですよ。そんなに他の人に書きたいってのもないし。ただ、話を考えるのは好きだから、そこで自分が男の子になったり女の子になったりとかの気分で書くのは楽しいけど」

--そういえばTMって、ストーリー性が詞の中に少ないですね。
みつ子「ま、ワン・シーンですね」
哲哉 「やっぱり僕が映像を浮かべて作るからね。それはドラマというより、ワン・シーンの羅列に近いから」

--そのシーンを把握さえすれば……。
みつ子「そう、絵が浮かべば、もうホントに書けるって感じになってきますね」

--で、その同じモノを見るための努力とかは?
哲哉 「曲とかは、こんな感じっていう例として、聞いてみて欲しいとか言うことはあるけど、ま、たまにね」

--こういう映画があるから、こういう本があるからってことも?
哲哉 「うん、でもだいたい僕が見てるくらいのものは彼女も見てますからね。突拍子もないところで、ウソ? 知らないの!? ってビックリするような何でもないものってのはあるけど。でも、その他ではだいたい似てるというか、僕よりはるかに見てる」
みつ子「雑談の中でわかってくるよね」

--やっぱり似てるのかな……?
みつ子「似てるのかな?」
哲哉 「そりゃ、まったく違うと無理でしょう。まったく好きな映画や本のタイプに共通点がなかったら、それは無理でしょう」

--最初、SFっぽいTMが好きだったと言ってたけれど、最近の人間関係的なものはどうです? あと、テーマとなってる夢ってモノへの共感なんかも、似てる?
みつ子「うん、そうですね…例えば、ひとりの女の子がいて、夢があって、宇宙に関して何か見えないものを持っているというそういう段階のすごく遠い夢から、だんだん近づいていって違うものが見えてきて、また少し行くとぶつかっちゃって、あ、なかったんだ夢なんて、と、そういうのがあって。でもまた違うんだと否定していくという。だから、普通の男の子でも女の子でもそういうふうに変わっていくのと同じ様なものは、あるかもしれない。私は《humansystem》がいちばん好きなんだけど、あれって、めぐり合わない誰かがどこかにいて、めぐり合いそうなのにすれ違っていくという歌でしょ。そんな意識ですね…うまく言えないんですけれど」


言葉がサウンドの一部になったときどう飛び出すか

--ところで、みつ子さんが書く宇都宮隆ってどんな男のイメージがあるんです?
みつ子「いや、私はウツはどういうのかってのは、あんまり考えていないですね。毎回のテーマは哲ちゃんから出てくるでしょ? そこで私は想像して。でも、ウツがうたった時にはまたウツの表現ってのがあるから、違ってくるんですよ」

--でも、どういう男になって欲しいってイメージはある?
みつ子「そう、やっぱりウツには一所懸命って感じがいいよね。と私は思う。でも、一所懸命がただバカみたいな空振りの一所懸命になって欲しくはないから、毒の部分だとか否定的な部分、そういうのを出してくれればいいなアと」

--そのあたりのコントロールって、しかし歌詞の設定ひとつで、ずいぶんできるんじゃないですか?
哲哉 「でも、やっぱりウツの段階で変わる部分も大きいですよね。で、ウツのうたい方ってくどくないでしょ? ひとつの単語でも演歌の歌手だったら、8小節くらいコブシとか使ってのばす、とかね。だからその言葉の重さってのも歌い方によってすごく違うから。ウツにはその、さりげなさっていうのがあるし、そこでギリギリ、またウツなりの表現ってのも形になってると思うしね。それでまたレコードになってみんながそれを聞く時には、いろんな人の思いやエッセンスが入っていって…」
みつ子「キネちゃんの曲のときにはキネちゃんの思いってのも最初に入るしね」
哲哉 「だから、最終的にはいろんな味の素というか、誰がってのはないんだけど混ざりに混ざり合ってますね」
みつ子「いろんな人が自分の範疇からはみ出してコレはナントカだって言うこともあるしね」

--それもあって、さっき作詞家にはオリジナリティーはない、と言ったのかな?
みつ子「いや、その意味はですね、作品を書いててね、後でソレについて自分から何か解説をするというのは変でしょ? 変というか、自分はやっぱり小説と作詞とどちらも大切なんだけど、小説は書いたらもう書いたそのまま読む人にゆだねてしまうからね。でも、作詞はその第三者に手渡す部分で少し違う。パフォーマーがいるというか曲が付くから。で、その場合にオリジナリティっていうのは絶対にTMであるわけで。だから別に私がね、こうやって出てきてしゃべることまない、とは思うんですよ。だから、そういうのは自分に対する戒めなんだと、うん」

--それで今まで表にはあまり出ないようにしていたんだ。
みつ子「そう、以前、歌ってたでしょ。何が嫌だったかというと私は自分ではパフォーマーというか、自分で演じて伝えていくってのが苦手で。だから小説だと書いた時点で後はとにかく作品だけがひとり歩きしていくという点がうれしかった。今もそういうのが好きだし。だから哲ちゃんとかTMとは完全に違いがありますね、作るだけじゃなくて自分の手で表現して伝えてるでしょ、3人は。だからTM NETWORKのオリジナリティはこの3人の中にある、と私はそういう意味でも言いたかったんです」
哲哉 「でも僕はレコーディングのときにはスタッフ意識は強いよ。コンサートでもそうなんだけど。そういうときって、舞台監督や演出、照明の人とか、みんなそれなりに自分を表現するものは持ってるんだけれど、何かひとつ完成させるためのスタッフ意識ってのが強いでしょ。たまたま僕は自分がメンバーなんだけど、それでも弾いたり作ってく段階では客観的に見てスタッフ意識になる、というところはあるし、それは当然だとも思う」

--そうすると客観的に見た、みつ子さんからTMに対しての将来への要望は?
みつ子「もう、どんどん。ねエ、そういえばLAで言った哲ちゃんの言葉でカッコイイなと思ったのがあるんだけど」
哲哉 「?」
みつ子「トラック・ダウンで毎日1曲ずつ仕上げてた時期に、最初は1曲に10時間くらいかかってたのが、だんだんそれなりに短い時間でできるようになって、私がその時、だんだんスピード・アップしてきたね、なんて言ったら哲ちゃんが、『うん、それは打たれ始めたピッチャーと同じだ』って。要するにエンジニアのグラスキーがどうやらTMの音ってのを把握してきてトラック・ダウンが速くなってきたんだけど、『アッ…こいつの球はカーブと直球だけだなと思われたんだ』って言うんですよね。で、すごいコト言うなアと思ったんだけど…でも、私は哲ちゃんはシュートでもフォークでも投げられる人だと思ってるから、だからもっともっと球数をひねって、増やしてですね、そういうふうにやっていって欲しいな、とは思いますね」

--ただ、シュートやフォークが出てくると詞もその分、ますます難解にはなりませんか?
みつ子「うん、難題ですね。でも、いつも今までもね、LPの準備が始まってるよ、と聞いて、そうか、また書くのかなと思うたびに私は緊張してるんだけど。うん、書いて、できるまで、自分でもどういうものができるのかわかんないし」
哲哉 「それはあるね。やってみないとわかんないってのは。ただ、僕達の方はみつ子さんを全面信頼しちゃってるから……なんか、明日、歌詞ができてくるから、とか言っちゃって、もう決めつけて予定進めてるでしょ、だいたい。だから、たまにできなかった、とか言うとインパクトあるかもしんない。そういうの聞いたことないけど」
みつ子「うん、けっこうガンバッてるでしょ、私。その、しめ切りの部分は」
哲哉 「そう、だから歌詞がない、とかいうことないからね」
みつ子「泣きながら夜中、やってるもん」

--一晩で書いちゃうんですか?
みつ子「うーん」
哲哉 「そういうこともあるでしょ?」
みつ子「そうね。ただ、その時はもちろん一応の形をとるだけの形で……」

--なにやら一発でOKのような…。
みつ子「そういうのも何曲かはあったね」
哲哉 「うん、あったね。最近はもう、ほとんどソレで」
みつ子「《GORILLA》の時だった? あのときはいちばんツラかった」
哲哉 「あそこらヘンで一度変わったからね。曲調も全部」
みつ子「だから何度も書き直したという」
哲哉 「いや僕がウルサイのは、というか、注文つけるのは聞いた聞き触りの部分でね。言葉1個1個がすごく重要で良くても、それが音としてサウンドの一部になると、いろいろあるわけで。その言葉が音としてサウンドの一部となる時にどう飛び出すかという。それがカッコよく飛び出してる場合はいいんだけど、ちょっと浮いちゃったりするとそこの印象が強くなちゃいすぎて気になるからね。だから、そういう時にはせっかくその言葉はいいんだけど、もう少し違う言葉にしてもらいたい、とかね。ま、歌詞ったってサウンドの一部だから」
みつ子「TMって詞の内容もさることながら聞いた感じ、ノリの良さを壊すものはいけないってのは重要だしね。それでいてコンセプトのあるものを作らなきゃならないという」
哲哉 「だから難しいよね、それは」
みつ子「それでどうしてもノリ優先の時には英語を使っちゃう」

--すると英語っていうのは、少し逃げ道的な部分もあるわけ?
みつ子「うーん、とうか…サウンドを壊したくない時に使う」

--最初はその英語力を見込まれて、と言ってましたね。
みつ子「最初はだから〈RAINBOW RAINBOW〉だった」
哲哉 「そう、あれは未だに詞が好評でね、エッチで(笑)。あれは半分くらい英語だったけど、未だに日本語にはできないくらいですね」
みつ子「自分のすごく過激な部分を英語だから書けるってので、楽しんで書いた部分もあたしね」
哲哉 「ただ最近は少しずつ、サビやコーラスについても僕は英語でなきゃいけないってのがなくなってきましたけどね。もう日本語でもかまわないという受け入れ体制ができている」
みつ子「できればね、日本語の方が伝わりやすいわけだから……」


制作現場というのはもっともっと現実的なもの

--TMサイドからみつ子さんへのエールもこの際、聞かせてほしいんですが。
哲哉 「僕はすごく飽きっぽいから、そういう意味ではいつもいつも変わっていくとは思うけど、刺激が与えられるようにはしていたいんですけど……やっぱり小説がメインでしょ? というか時間がかかると思うし」
みつ子「うーん、そうね」
哲哉 「そのへんで、せっかくだから賞を取れるくらいガンバッテ欲しいですね。やっぱりTMだけで独り占めしているのももったいないなという気もするし。いや、それでいいんだって気もしてるから、そこらへん難しいんだけど(笑)。これ、詞はTMだけでいいかも知れないけどって気持ちだよ」
みつ子「でも、幸せですね。小説は自分ひとりの表現だけど、作詞はちゃんと表現者が前にいる。演じてくれる人がいるってことは何か書いてる人間にとってはうれしいことで」
哲哉 「でも、すごいですよね。女の子で作詞家になりたいって人は多いからね、すごく」
みつ子「そうみたいね、ファンレターはほとんど、とにかく詞を読んでください、だもの」
哲哉 「だから、あこがれの人ですね」
みつ子「やだなアー、そういうの(笑)」
哲哉 「でも、ホント、陰にいる必要はない人ですからね、それだけは思うんで、もっともっと引っ張り出してもいいんじゃないかと。でも、嫌いなんだから仕方ないね」
みつ子「そう」
哲哉 「それを無理矢理引っ張り出すという」

--ところで今日の対談、TMの詞の世界の方へは発展していかなかったですね。
哲哉 「ま、これは、すごく制作現場だから。映画でも製作現場ってリアルでしょ? セットが見えちゃったりとか。監督がいたりとか。今の、ここの話って、そこの話だからね。それが形になるとああいうファンタジックなものになっているという。みんなだって別に、僕たちがいつも夢を語り合ってるとは思ってないと思うから」
みつ子「そう、実は……」
哲哉 「もっともっと現実的で、すごく苦労してるってことです」
みつ子「だから、〈フール・オン・ザ・プラネット〉じゃないけど、普通よりどこかハミ出してる部分って誰でも持ってることでね。そういうのが少しヘンなヤツの、ヘンな想い、ヘンな夢なんだけど。でも、それでいいみたいなところなのね、その世界って」

--逆に、それを言葉で説明しちゃうとテレちゃうしね。
哲哉 「そうね。形にはそうなっても、それまでの過程なんかはもっと事務的な処理がいっぱいあるから。レコーディングにしても理論的だしね。あんまりエッセンスだけ言っても、その作業っていうのは実際、地味だから。言葉でもさ、ここに5つの音符があるから5つの言葉を探さなくちゃいけないって感じでしょ? 言葉探し、ゲームみたいなもので。そういう仕事にしてもまた単純な作業なわけでね。ま、だいたい何でもそうだと思うから。そこらへんは舞台裏って言葉で。ま、僕たちって地味な職業ですよ(笑)」
みつ子「またまたァ」
哲哉 「いや、作詞・作曲家ってのはホントに」

--さっきはあこがれの職業だったのに。
哲哉 「いや自分がね、作曲家っていう部分を持つと気付くんですよ。TVとかで若い子に聞くとね、誰が作詞・作曲であるかなんてクレジットは普通、見ないって。ヒットしてる曲でも知らないし、極端な話、僕が作曲したアイドルの子でさえ、作曲家? 誰だっけ?なんていう人もいるわけ。名前忘れちゃった、とか。そのくらい地味なモンなんですよ。今はたまたま僕がTMというので気にしてくれる人もいるけれど。ただ、地味ですが、やりがいのある仕事ですよと」


詞の中で使う言葉は、映画や本の中にも、いくらでもころがってる

哲哉 「それじゃあ僕がひとつ聞いてみようかな」
みつ子「?」
哲哉 「いや、単語とかはいつも勉強しているのですか? 若い人の耳にフックするような単語を。例えばね、会いたいんだよ、と言う時に、いろんな小物を使ってるわけじゃない? いろんな場所を設定したりとか。そういう時の設定の言葉をどうやってたくさん集めてるのかという。そういうのは自分の中で、今までに持ってるわけなの?」
みつ子「いや、そういうのは割と不勉強なんだけど。でも、映画や本にだってころがっているものだからね。ただ、こっちが意識していないと見過ごしちゃうものだとは思うけど。あっ、コレいいなって気づく」
哲哉 「ソレ、書き留めとくとかしないの? それとも頭の中に入れておく?」
みつ子「ホントは書き留めなくちゃいけないんだけど。だからすっかり忘れて、なんだっけ? という。でも会話しててもね、おもしろいなと感じたものは憶えてるよね。コレ絶対使いたい! とか思って。そういう意識はあります」
哲哉 「ふーん。すると、もし詞を書きたいと思っている人とかは、そうした方がいいよね」
みつ子「例えば愛してるってコトでもね、ラブ・ソングにするにはそれをどういうふうな言葉で、どういうシチュエーションで書けばいいのか、分解させていくわけで。ありきたりに愛してるで終わっちゃうのはツマラナイものね。そう言ってしまうよりは自分だけの言葉を拾っていきたいという。人の使わない言葉を使ってやろう、という発想ですね」


 '84年のデビュー・アルバム『RAINBOW RAINBOW』以来、'88年『humansystem』まで両氏のソング・ライティング・チームの作り上げた作品は、今やTM NETWORKを語るに必要不可欠なものとなった。その舞台裏はしかしながら、リアルな作業の連続である。互いを理解し、言葉を探し、苦悩する中で曲はひとつの像を結び始め、やがて私たちの心に、感動を生む。そこにはトリックのかけらすらない純粋な視線だけがあることに、私たちは気づくことだろう。そして、両氏のフィルターがいかに個性的なものであるかは、そこに生まれるTMのファンタジックなサウンドの世界から知ることもできる。'88年のTMの展開はいかなるものになるか。さらにダイナミックに、さらに感動的に活躍を続けていくであろうTM NETWORK。その根底を支える2人の会話はさりげなくも自信にあふれている。

   *

 2月5日、小社より小室みつ子のショート・ストーリー集『ファイブ・ソングス』が発刊された。TM NETWORKの5つの曲をモチーフにした5編の物語が綴られているこの作品もまた、彼らの共同作業のひとつの断面であるといえるだろう。


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