'86年7月号

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photo:K.Yamazaki

TM NETWEORK
パワーとテンダネスの共存
ニューアルバムの全貌


 ついに、TM NETWORKのサード・アルバム『GORILLA』が、6月4日にリリースされる。このアルバム・タイトルのインパクトと、サウンドのインパクトは、目に見えないビートになって、強烈な勢いで伝わって来る。さァ、TM NETWORKの新しいコンセプト“FANKS”を具現化したニュー・アルバム『GORILLA』の全貌を、ここに紹介しよう。


ニュー・LP 「GORILLA」

 TM NETWORK、待望のサード・アルバムのタイトルは『GORILLA(ゴリラ)』。  このインタビューの、一番最初の問いは…「今度のアルバム・タイトルは?」だった。その問いに、小室哲哉は一瞬、意味深に瞳をキラめかせて一言。

 「『GORILLA』です」

 と、答えた。思わず「えっ!?」と問い返さずにはいられなかった。それは、これまでの2枚のアルバムとは違った、インパクトとリアルさを、このアルバム・タイトル『GORILLA』から受けたからに、他ならない。
 私達が普通、動物として認識する“ゴリラ”なのか? 見かけは獰猛でありながらも、どこかヒョーキンで優しさも持っており、人間臭いところもある、あのゴリラ?という反問でもあった。

 「とりあえず、インパクトのある言葉が欲しい。そして、力強い感じのものはないかな、というんで探してたんです。大体は、映画なんかの『キング・コング』とかをイメージしてもらえばいいんですよ。力強く男らしい、そして優しさがあって、悲しむ時もあるような、とてもヒューマンさを持っている。とにかく、強いだけじゃなくて、何か一番人間の脆さとか、優しさがあるというイメージですね。パワフルさと、テンダネスの、両方を持っているんじゃないかと思いまして。まァ、タイトル名を言った時に“えっ!?”と、聴き返してくれるだけでも、いいんじゃないかと思ってるんですよ(笑)」(小室)

 一昨年のデビュー・アルバム『RAINBOW RAINBOW』、昨年のセカンド・アルバム『CHILD HOOD'S END -幼年期の終わり-』の、2枚のアルバムは、どちらかというと抽象的で“夢”や“希望”を感じさせてくれるようなタイトルであった。そして、歌やこの音楽シーンの中でのTMのステイタスをも、そこへ求めていた。

 そして今年からは、ファンキーとパンクとファンを織りまぜた新造語“FANKS”という、明確なサウンドとメッセージのコンセプトを打ち出し、そこにステイタスを求めている。その“FANKS”を、動物に例えたならば、このアルバムタイトル『GORILLA』になるという。ただし、同名曲はこれには収録されていない。だからこそ、TM NETWORKの象徴としての、インパクトと存在感を持つタイトルだ。

 地平線まで、果てしなく広がるアフリカの大草原に、ライオンや縞馬が走り回る。象やキリンが、のんびりと歩いている。緑のジャングルには、チンパンジーや多くの鳥達の住み家でもある。そんな、一見美しくのんびり見える世界も、裏を返せば弱肉強食の世界。どこか、人間社会に似てるかもしれない。うっそうと生い茂ったジャングルは、間違って踏み込むと二度と出られないという。高層ビルの林立する都会も、そういう甘く危険な誘惑が漂う。そして、弱い者を踏み台にして出来上がっている、三角形を成すこの社会機構。

 そういう世界に住む私達を『GORILLA』という、パワーとテンダネスの両方を持ち合わせたアルバムを提示することで勇気づけ、一歩前へ足を踏み出す、活力にして欲しいのだろう。

 特に、A面3曲目に収録されている「PASSENGER」という曲は、ニューヨークの地下鉄を題材にしたという。それだけに、ラップが入っていたりと、かなりニューヨークセンスの強い仕上がりとなっている。この「PASSENGER」という意味は“乗客”。都会に住む、いろいろな人々をTMの音楽“FANKS”の乗客とし、力強く、優しく包み込むように、各々の新しい世界へ導くのだろう。

 「詞の面では、結果的に個人的に取ってもらえたら成功だと思うんです。僕達としては、前から言ってるように“僕達から、君達へ”と思ってるんですけど、それが、個人的な部分にあてはめてくれたら、いいと思います。一応、ラブソングといえるものもあるんですけど、個人的なものではないんです。“キミ”と言っても、1人を対象としているのではないんです。」(小室)

 それだけに、このアルバムを聴き込めば聴き込むほど、一曲一曲が深い意味を持ち私達にメッセージとなって伝わってくる。その作詞家陣は川村真澄、西門加里、竹花いち子、神沢礼江という、4人の女性作家達が、10曲中9曲を担当。A面の1曲目は、小室哲哉と木根尚登の共作。作曲は、彼ら2人の共作が2曲、木根尚登が2曲、小室哲哉が6曲書き下ろしている。そして、サウンド・プロデュースは、もちろん小室哲哉が担当。


WHITE FUNK と FANKS

アルバム全体のサウンドのトーンは、どこかヨーロッパ的だ。良い意味で、とても品が高い仕上がりになっている。さらに、もう一歩突っ込んで言うと、イギリスのロンドンの香がするようだ。

 「イギリスのバンドで、黒人の音楽に憧れているのは、たくさんいるんですよ。強いて、僕達のお手本みたいなバンドと言えば、ホワイト・アベレージ・バンドという、イギリスのバンドがいるんです。これは、メンバーもスタッフも誰も知らないことなんですけど。一回聴いただけでは、白人のバンドとは分からないんです。それ程、完璧に黒人のニューヨークとか、ポストン、シカゴ辺りのディスコ・バンドみたいなんですよ。そういう、僕達日本人がアメリカの黒人の音をまねた音をイギリス人がやると、ホワイト・ファンクというんです。でも、やっぱり黒人の音には、なかなかなりきれないんです」(小室)

 TM NETWORKは、黒人のファンキーなサウンドとリズムを取り入れて、日本人なりに料理を試みた。イギリスのバンドも、同じような試みを白人なりに行っている。そこに、一つの目標を目指す二つのものに、不思議な共通項が生じたのであろう。

 それを、イギリスではホワイト・ファンクと呼ばれ、TM NETWORKは“FANKS”と名前を付けたのだ。でも、そこに彼らは、作り出す音楽だけの意味合いではなく、応援してくれる“ファン”“オーディエンス”を巻き込んだ意味合いで使っている。そこに、TM NETWORKの素晴らしさや、優しさを感じずにはいられない。

 もう1つのポイントであるリズムは、青山純のドラムが、曲全体を包み込むように、サウンドとメロディーを引っ張っている。また、聴く者の体の中にあるリズムが引っ張り出され、浮き立たせられるような響きを持っている。パワフル、ファンキー、ダンサブル…それだけの言葉では言い表せない独特のリズム感を醸し出している。これはもしかして、人間の基本的な体内に持っているリズム、胎内動にも通じるような、リズムの作り方なのかもしれない。

 最後に、6月10日から始まるコンサート・ツアーについて尋ねてみた。

 「まだ、具体的には何も決まってないんですけど、今回は演奏だけでも充分にたえられるようなものにしたいです。それに、演出をたくしていくっていうふうに。リズムとか、細かいところまで、シビアにしたいと思ってます。1曲、1曲を充実した音にして、ノリを良くしたいですね。まァ、ウツはもう自主トレが始まってますから(笑)」(小室)

 「曲に合わせて、木根とのからみをしようと。今回、それが一番大きいんじゃないかなァと、思ってます」(宇都宮)

 「木根クンが、カギです。彼が、一体何をやるのかと(笑)」(小室)

 「正直言って、すごいプレッシャーです(笑)。でも自信はありますよ(笑)」

 TM NETWORKのバックは、前回のツアーと全く一緒で、合宿も行うそうだ。それだけに、去年とはステージでの全員のコミュニケーションも比べものにならないだろう。それが、サウンドや演出の面でも充分生かされて、目前に迫った全国ツアーで、TM NETOWRKと、会場に集まった観客達とが作り出す“FANKS”となって、実を結ぶだろう。


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