'86年6月号

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photo:K.Yamazaki


This is the FANKS DYNA-MIX


TM NETWORKの新たなコンセプト“FANKS”が、ついに完成した。一聴した私は、その感動をどのように言葉で表現していいのか、わからなくなってしまった。それは、4月21日に発売になった、12インチ・シングル「Come on Let's Dance」。


ニューヨークでのリミックス


 3月下旬のある日、EPIC・ソニーのお使いさんの女性から、編集部の私あてに、1本のカセット・テープが届けられた。それは、TM NETWORKの4月21発売の12インチ・シングル「Come on Let's Dance」の試聴用テープだった。
 高鳴る胸の鼓動を押さえつつ、カセット・レコーダーに叩き込むようにテープをセットして、震える手でヘッドフォンを付け、スイッチを入れた。
 パワフルなリズムと、きらびやかなサウンドの波に、耳が圧倒されてしまった。そう、この音楽が“FANKS”なんだ。今まで小室哲哉が、私達にいろいろな言葉で説明してくれたTM NETWORKのサウンド。待ち望んでいた私達の期待を、遥かに超えた出来上がりになっている。ダンサブル、ファンキー、パワフル、そしてポップ!!う〜ん、何とも一言では言い表せられないもどかしさを感じる。うん、やっぱり“FANKS”なんだ。副題に“This is the FANKS DYNA-MIX”って付いているではないか。これは、ニューヨークでのミックス・ダウンも、功を誇る要因となっているのだろう。

 「ニューヨークへ行ったのは『Come on Let's Dance』のミックス・ダウンがメインだったんです。余計なものは削ぎ落として、やりたいことの意図だけを、うまく引き出そうと。サウンドは、完璧にやれたんじゃないかな。音は随分と削ったので、音数的には、今までの半分くらいですよ。今まで通りのバランスや、トラック・ダウンの方法だったら、すき間だらけの音になってたと思うな。全体のサウンドも、a-haとかみたいな流行のものになってると思いますす」(小室)

 今までよりも音数を削ぎ落としているというが、聴く方はまるでサウンドの玉手箱の中に、足を踏み込んでしまったように感じる。一音一音の、音の輪郭がハッキリとしており、浮き出るように、輝くように、一つ一つの音が、ストレートに耳に飛び込んできて、頭の中を駆けめぐる。もちろん、宇都宮隆のボーカルも、例外ではない。言葉の一つ一つが、クッキリと聴こえてくる。

 「ニューヨークのスタジオのミキサーの人は、日本に関心を持っている人だったので、日本語の意味だとかを、すごく大事にしてくれたんです。ウツって、声質からいってもアイウエオの母音が低いんですよ。だから、日本語が分からないんだけど、そこら辺すごく気を使ってくれて。メロディーを覚えて、自分で歌いながら、フェイダーで音量の上下をして、全部の言葉が聴こえるようにしてくれたんです。コーラスを3曲分と、サックスも入れて来たんだけど、一番人間に近いところの作業に、日本とのレコーディングの差を感じるね。結局、向こうのマシンがいいとか、ドラムの音がいいとかっていうんじゃないんです。機械には出来ない、一番人間的な部分を、今回はピックアップしてもらいましたね。ニューヨークとかいうと、雰囲気などで感動したりもするけれど、もしかしたら違うような気がするな。日本の方がいいですよ、ないものはないし、マシンは素晴らしいし。ニューヨークが、日本の音楽サイクルと合ってると思う。歌とトラック・ダウンは、向こうでやった方がいいと思うな。リズムとか、シンセとかコンピュータ類は日本でやっていって。そして、勝手にやってというのがいいね。単に、好きにして下さい、というと早いですよ。10分くらいで、出来ちゃう。(笑)」(小室)


Danceという言葉をキーワードに


 タイトル曲「Come on Let's Dance」の詞は、神沢礼江さんが手掛けている。今までの“金色の夢、見せてあげる”というコンセプトから一歩踏み出した、少しハードでリアルな現実感を漂わせている。
 混沌として、何をするにも不確かで、手探りで進むしかない状況の中、微妙に揺れ動く若者の、心の葛藤がにじみ出ている。そして、そこから一歩踏みだそうという、Dance!!

 「詞を依頼する時に、引き合いに出したのがハワード・ジョーンズとかエルトン・ジョンの歌なんです。彼らの歌って、ただ聴けばポップで軽い音楽で、さしさわりのないものに聴こえるんですよね。でも、歌詞に目を向けると、結構ラブソングはほとんどなくて、友情だったりとか激励の歌詞だったりするんですよ。本当に叱咤激励って感じで。やっぱり、希望を持った方がいいよとか、やれることは今これしかないからがんばろうって。その辺が、外国ではうけてる原因らしいの。日本の場合は、ちょっと違うけどね。でも、そういうのを一度やりたくて。最初は、音がカッコいいなァと思って入った人でも、詞に耳を傾けると、そういう深い歌なんだと。僕達から何かしようとしている君達へ。何もないけど、何かがんばろうとしている君達へ。“夢”を捜している君達へと。すごい堅めですね。“Dance”っていう言葉を、キーワードみたいにしたっかったんです。下降線を上昇線へ向けるための、キーポイントの言葉として」(小室)

 TM NETWORKは、1年程前に発表したシングル「アクシデント」までを序章とし、2nd、アルバム「CHILD HOODS END-幼年期の終わり-」と、コンサート・ツアーまでを、第一章とし“金色の夢、見せてあげる”と題し、終わった。そして、今新たなコンセプト“FANKS”という、彼らのサウンドとメッセージを表した言葉で、私達ファンの前に登場して来た。それを、君達の心でしっかりと受けとめてほしい。そして、君達の明日へのステップの助走となるように、Danceしようじゃないか。暗く沈みがちになる夜は、必ず終わりを告げて、明るい朝陽が昇るのだから。その朝陽は、誰にでも平等に降りそそいでくれるのだから。
 そして、ビジュアル面でも「Come on Let's Dance」の、プロモーション・ビデオを製作している。これは、6月4日に発表する彼らの3rdアルバムのレコーディングと平行して行われてる。

 「撮影は、レコーディングの徹夜明け、名古屋へ移動して、その日一日撮ったりとか。ビデオ録りというと、そういう強行軍ばかりですよ、本当に。(笑)」(木根)

 「でも、かえってそういうボロボロの時の方が、いい表情が出るみたい。『1974』の時なんか、38〜39度くらいの熱が出てて、目がトロンとして何ともいえない表情をしてるんですよね」(宇都宮)

 「ビデオは、サウンドに沿った感じです。ディスコがあって、ウツが踊ってたりとか振りがカッコよくて、ダンスというのを表現してるんです」(小室)

 ディスコティックの、休みなく明滅して回転を続けるライティング。そして、コンピュータ・グラフィックの駆使、大掛かりなロケーション。ウツが髪を切る…。
 まだ見てはいないが、冒頭に書いたような試聴用テープを初めて聴いたときに味わった感動を、もう一度再現してくれるに違いない。

Come on Let's Dance
Everybody says
Come on Let's Dance
Shakin' Breakin' out Tonight


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