昨年まで、金色の夢を我々に見せつづけて来てくれたTMネットワークは、今年の明確な活動のヴィジョンを提示してきた。それは、一体どんなものだろうか。興味深々、話を聴いてみた。
“TMネットワーク=FANKS(ファンクス)=AV”あるいは、“FANKS+AV=TMネットワーク”この公式は、現在のTMネットワークを解くカギである。4月2日に12インチ・シングル、5月にはアルバムを予定している彼らは、そのふたつをはさんで、「TMネットワーク、FANKS、AV。この3つを言い続ける。この3つしか言わない」という。
*
「TMネットワークというものがデビューしてから、TMがいったいどんな音楽をやっているのかということが、感覚ではわかっていても言葉にできなかった。エレクトロ・ポップでもないし、とかいろいろ考えて、何かいい名前があればいいなとはずっと思いながら、浮かばないままだったんですね。
で、今回“FANKS”という音楽をやろうと。今までのTMも、ダンサブルなものはやってたんだけど、本格的にダンサブルで、ファンキーなもの--ディスコ・ミュージックとか、モータウンとか、とにかく踊りやすいものっていうのを、今度はちょっと極めたいっていうのがあって。でも、僕たちは日本人だし、曲には日本語がのるわけだから、向こうのいわゆるファンキーなものとは、全然違う音楽になるかもしれない。ということは、もしかしたら、“ファンキーなもの”を、自分たちで勝手にブチ壊していくんじゃないか。つまり、それは一種のパンクなんじゃないか、と。それで、ファンキーなものをパンクしてみようということで、それをファンクスと呼ぼうと決めた。スペルは本当なら“FUNKS”なんだけど、それを“FANKS”にしたのは、応援してくれるファンの人たちと共存しているという意味も込めて、ファンの人たちのことも“FANKS”と呼んでしまおうと。多分、音は“えっ!? これがTM!?”っていう感じだと思いますね。ギターが、とにかくやたらに入ってるし、ホーン・セクションに黒人の女性コーラスとか、ゲストも多いし」
TMネットワークとしてデビューしてから約2年というのは、イメージ優先、ストーリー優先の活動だった。気分よりも、マニュアル通りに、役を演じることに徹してきた。TMネットワークは、遠い宇宙から地球を発見し、観察し、調査した結果、地球を素晴らしい場所だと判断し、クリスマスの日に地球に降り立つ。ここまでが、今までのTMネットワークのSFファンタジー的なストーリーである。今回は、人間になった3人が、人間として何をやろうか?というところから話は始まる。音楽をやろう。そして、それを“FANKS”と名づけよう。これより後に、ストーリーは不要だ。
「やっと、コンセプト自体が音楽になった。今までは、僕たちの動く方向がコンセプトだった。動いていく道を知らせるための、標識や、いくつかの到達地点の記念みたいな感じでレコードを作っていたといえるかもしれない。今回はFANKSっていう音楽をやってみようっていうことが、そのままコンセプトだから、“ここへ行かなければならない”っていうのはないし、すごく自由にできる。何をやってもいいんだっていうところがあるし、自分たちが何をやりたいか、やればいいのかっていうこともわかっているからね」
ヴォーカルの宇都宮隆は、あらためて“ファンキー”だと思われるレコードを聴き、リズム録りからレコーディングに参加し、毎日歌の練習をしているらしい。ギターの木根尚登は、今までの“仕事”意識が今回は感じられず、とにかく楽しんでやっているという。そして、小室哲哉は、頭の中に完成している“FANKS”を具現化するために、今まではあまり出さなかった、歌い方に対する注文などもこと細かに、また一方では、思わぬ方向へ進んでいくかもしれないことを楽しみながら、作業を進めているという。
また、今回は、ライブで演奏することを想定したうえで、レコーディングが行われている。これも彼らにとっては初めての試みだ。
「今までは、既にできあがっているものをどうやって演奏するか、どうやってみんなの前で表現するか、っていうベクトルしかなかったわけ。でも、こんどは、みんなの前でやってみて良かったものを、どうやって作品にして残していけるかっていう、逆のベクトルがすごくある。だから、もしかしたら、どの曲も全部同じに聴こえちゃうかもしれない。残るのは、ただひとつのイメージだって感じがする。今までのTMっていうのは、タイムマシン(TM)というぐらいで、あっちに行ってみたり、こっちに行ってみたり、いろんな世界が1枚に収められていたわけだし、めちゃくちゃ動きまわってたけど、今回は1ヶ所に落ちついてる。ツアーでは、その、ただひとつのイメージが、よりはっきり伝わるんじゃないかな」
ツアーは、6月10日から約1ヶ月の間に、20ヶ所弱の場所で「FANKS DINA-MIX」と題して行われる。レコードになったFANKSという音楽を、コンサートでやるというのは、ある種のリミックスになるのではという発想から、ダイナ・ミックスというネーミングが生まれた。コンサートに関しては、彼らはデビューした頃から、ディスコのようにしたいと言っていたが、今回は、以前の曲も“ダンサブル”なアレンジに変えて、全体の雰囲気としては「グシャッとした感じ、にしたい。シンプルにはしたくない」という。
「コンサートにしても、レコードにしても、とにかく初めて聴いたときに“ああ、踊りやすいね”っていうものしにたい。でも、僕たちは日本人だし、タイコがドッドゴ、ドッドゴなると自然に体が動いちゃうというのではないから、だいたい普通は、まずカッコとか、なんかオシャレだねって耳から入って、で、頭で聴いてニッコリしてから、体を動かす。その次は踊っちゃうっていう。ファッショナブルを前提としたダンサブルじゃないと。知的なダンサブル!?うん。(笑)僕たちはそういうのがいちばん合ってる。極端にいえば、ただ踊りやすいだけならドラムだけでもいいわけだし、ただ踊りやすいだけの音楽は、1回か2回聴けば飽きちゃうかもしれないけど、踊らないで座って聴いても、ちゃんと聴ける音にはします」
できれば、歌詞だけを取り出して読んでも、メッセージが伝わるものにしたいという。今までTMネットワークは、「金色の夢、見せてあげる」という、どちらかというと抽象的な態度を聴く人たちに示してきたが、今回はそういう「特定の人以外には、あまりまめにならないというか、なんの足しにもならないような」内容ではなく、「人の数だけある夢の中に、どこか一つ共通項を見いだしてもらえるような」歌詞にしたいという。
「1人称から2人称=僕から君へ、っていうよりは、僕たちからみんなへ、っていう感じ。もっと広くなるんじゃないかな。“金色の夢っちうのは、あなたから私への愛情だったの?”じゃなくて、それぞれみんながやりたいこととか、かなわない夢とか、何をやればいいのか、どんな夢を持てばいいのかわからないとか、自分の夢とは違う方向へ進んでいっちゃってるとかね。とにかく自分の夢がうまくいってない人、そういう人たちみんなにあてはまるというか。“僕は君を愛している”とか、そばにいてほしいとか、君がいないとさびしいとか、そういう言葉は入ってこない。“僕についておいで”っていうのも、ないかもしれない。“もっとがんばらなきゃダメだよ”とか、“もう1回ゆっくり考えてごらん”とか、“こうしてみれば?”とか。それが、たとえば単純に“今夜は、ちょっと踊ってみようよ”っていうことになるかもしれない。嫌なことを忘れて、今夜はとりあえず踊ってみようよ。意外とそういうものになるかもしれない。歌詞のことだけでいえば、似たようなことをやろうとしているなあと思えるのは、ハワード・ジョーンズかな。特に、『Only you can get better』とか『New Song』とか。近いんじゃないかなあ」
ところで、もうひとつ、TMネットワークを語るときに欠かせないのは、音楽とヴィジュアルの融合、つまりAVについてである。デビュー当時から、その先駆者であることを常に求め、意識してきた。映像的な歌詞も含め、ビデオ、ステージ、あるいは“Do it yourseif”を取り入れたレコード・ジャケットなど、時間と手間とお金をかけた“金色の夢”が次々に発表された。今回、FANKSという音楽を打ち出すと同時に、プロジェクトのロゴ・デザインをも変えてしまうというTMネットワークだが、この姿勢だけは変わらない。AVの先駆者であるためには、ビデオも先駆的なものでなければ「マズイ」し、いくら先駆的なものをつくっても、いまやすぐに追いつかれてしまう。そういった状況の中で“カッコイイ”を極めるには、かなりのセンスと技術が要求されるだろう。
「ファッショナブルでダンサブル、といったときのファッショナブルな部分。今回は、AV同時というよりは音に引きずり込むためのヴィジュアルが先にきて、それだけでは終わらずに音のほうへ写っていくという感じかな」
ところが、ヴィジュアルを意識しているわりには、彼らにはテレビ出演の話がこない。出演だけでなく、ドラマの主題歌やCMソングといったものにも縁がない。
「こうなったらもう、そういうのは、やめちゃおうかな。全部。依頼がきてもやらないようにしようかな。今、ファンの人たちが、僕たちを『夜のヒットスタジオ・デラックス』に出演させようと、署名運動をしているらしいんですけどね。こうなったらファンの人たちも意地になって、逆にみんなで、絶対出ないようにしちゃうとかね。たとえ大ヒットしても。で、『紅白歌合戦』にだけ出るというのが理想ですね(笑)」
彼らにいわせれば、とても律儀だというTMネットワークのFANKSは、TMの他に好きなアーティストとして、ほとんどが尾崎豊や大江千里、渡辺美里といった人たちを選ぶという。共通点は「みんな、律儀というか、けっこうカタイというか、フザケたところがないというか(笑)」で、特にTMに関しては、「横文字が並んでるし、洋楽っぽいし、“グルーピーがいてまいっちゃってさぁ”なんて言葉が出てきてもいいはずなのに、全然そうじゃなくて、たとえば打ち上げの後は喫茶店がいいね、なんて感じだから」と笑う。
「たとえば同じ“ダンサブル”でも、プリンスとマイケル・ジャクソンだったら、マイケル・ジャクソンよりのイメージをもたれているっていうか。今回、音はすごく不良っぽく野蛮になると思うけど、きっとみんなはそういうふうには思ってくれないかもしれない。なにか“のびのびやってるね”なんて(笑)こっちは荒くやってるつもりが。やっぱり夜の暴走シーンよりは、青空の下で走り回ってるシーンのほうが似合うとかね。おぼっちゃんっぽいイメージもあるらしいから、今度はお坊っちゃんがかなり暴れ回ってわがままやってる音になるかもしれないね(笑)」