今月は、宇都宮隆と木根尚登に、デビュー約1年半を振り返ってもらい、小室哲哉には、来年の活動予定を、語ってもらいました。“金色の夢”は、来年も引き続き輝くだろう。
TM NETWORKが、シンプジャーナルに初めて登場したのは、彼らのレコードデビューの時(本誌'84年6月号)だ。で、小室哲哉は将来のライブの夢を、こんなふうに語った。
「ライブは、最少人数で最大限の音をって、思ってます。決して無機質でなく、ロック・ショウって感じにしたいですネ」
それから約1年半、アルバムを2毎、ミニアルバム1枚、12インチ・シングル2枚、シングル2枚、ビデオを1本(+プロモーション・ビデオ2本)を製作してきた。そして、単発的なライブ活動…。その中で試行錯誤しながら、自分達のステイタスを、今年の前半まで探っていた。それは、本誌'85年7月号で小室哲哉は、その苦悩をこのように語っている。
「確かに、去年とかの方がTMに関して言えば、時代はあってたかもしれないです。さっき言った、波ってものが必ずあるから、今年とかで、どういう形で存在すればいいかが大きいと、僕は思ってます」
その後、2nd、アルバム「CHILDHOOD'S END-幼年期の終わり-」を発売し、TMにとっての全国ツアー“DRAGON THE FESTIVAL TOUR-金色の夢を見せてあげる-”に、突入していった。結果的に、このツアーは彼らが考えていた以上に、大きな刺激と活性化を彼らにもたらしたようだ。ただ単にサウンドとビジュアルを結びつけて、成功したということではない。彼らの、精神作用へライブからのフィードバックがもたらした、大きさだ。その中で、小室哲哉に「このツアーで、何か掴んだかな」('86年1月号)と言わしめた、宇都宮隆から、まず話を聴いた。
「やっぱり、今年は初めてのツアーというのが、一番大きかったです。ジャズ・ダンスやサーキット・トレーニングに通って、下準備をしましたし。終わってみると、充実感はあるけど、細かいところをあげると、まだまだと思います。でもこれで、来年へ向けてのいいスタートを切った気がします。
レコードとライブって、歌い方にしても自分の精神的なものも、違うんですね。ライブはレコードと違って、お客さん相手の“生”ということで、感情的にも自分が持ち上がるし、精神的なものが大きいです。とても楽しいし、大好きですね、ライブは」
彼はこのように言いつつも、コンサート中でも、冷静に客席を見まわせるようになったという。宇都宮隆にとっても、このツアーでより一層、自分のステイタスを明確に出来たのだろう。そして、来年への新たな予感がきっと浮かんできたことと思う。
昨年までは、ミステリアスな存在として、ほとんど前面に出てこなかった木根尚登。彼は、取材とか写真にしても、影に隠れていて謎の人物という、最初からの設定であった。今年はその善し悪しが出て、それを来年への飛躍にしようとしている。
「やっぱり、引っ込んでいたということで、自然に消極的になっちゃいましたね、いろいろと。それを克服しようとしたのが、この1年です。そこで、最初考えたのは、一番自分で自信のある部分…ひょうきんで、ユーモラスな部分を基本にして、広げていこうとしたんです。ライブでも、ラッパとかバイオリンのオモチャで遊んでみたりして。それで、ファンの人達も『木根さんって、実はこういう人だったんだ』と思ってくれたようで、成功したと思ってます。ツアーも大変で、ウツと2人でサーキット・トレーニングに通いましたよ(笑)」
木根尚登の、そういった人間性を、やっと表せた一年であったことに違いない。そして、TMのサウンド面の中核としての存在も、見過ごすわけにいかない。とかくTMといえば、コンピューター・ミュージック、シンセサイザー・サウンドと、思われがちだ。確かにそれは否定できない。が、今回のツアーで彼が聴かせてくれた、素晴らしいアコースティック・ギターのプレイをフューチャーしたことは、鮮烈で衝撃的だったことも確かなことだ。その存在感は、小室が率いるキーボード群にたいして同じくらいに重要な位置をしめていた。そして、宇都宮の男臭くパワー溢れるボーカルがそれら2つのものと、絶妙なバランスで絡み合って、このツアーでファン達を圧倒していったのだ。
「来年は、4月か5月に発表するアルバムを示唆するようなシングルを、3月か4月にまず、発表します。そして、6月からはライブ・ツアーが始まり、全国20ヶ所を予定しています。で、8月の終わり頃に東京で、1〜2万人規模の野外で、フリー・コンサートを計画してるんですよ」
小室哲哉今年のツアーを踏まえた上で、このようにライブへの情熱を語ってくれることは、とても嬉しいことだ。それだけ、TMにとってのライブの大事さを認識させたのだろう。そして…
「今までは、レコードでやったことをライブでどうしようというパターンだったけど、今後はライブのものが、フィードバックされると思うんだ。ツアーでやった事が、レコードに反映されるというふうにね。いろんな意味で、リアル・タイムにTMの今のサウンドを皆に伝えたいんです」
TM NETWORKは、結構キャンペーンなどで、全国を回っている。そのことに満足せず、「ファンの前から消えないで、常に居続けるという姿勢でいたい」と、話してくれた。
小室哲哉、宇都宮隆、木根尚登の3人の頭脳と個性が、確かなネットワークで結びついている。その結実であるTM NETWORKは、音楽とビジュアルとライブパフォーマンスでファン一人一人のネットワークの輪を広げようとしている。その第一段階は、今年で終わったような気がする。それは、先月号で小室哲哉が「自分達のポジションを見つけた」と語る、自信が見えるからだ。来年の彼らに、増々期待を抱いてしまう。