'85年 6 月号

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photo:M.Kagawa


レコーディング・ルポ
TM NETWORK 音(サウンド)の魔術師達へアプローチ


 小室哲哉、宇都宮隆、木根尚登の3人からなるTM NETWORKが、待望のニュー・アルバムをレコーディング中だ。昨年4月にデビュー・アルバムを発表してから、今度の6月21日発売予定なので、何と1年2ヶ月ぶりとなる。本誌にも、TMに対してのインタビューの要望が、多数よせられた。そして今月、やっと次のアルバムの全貌を聞かせてもらうために、登場してもらうことができた。


 この日、新宿御苑前にある“テイク・ワン・スタジオ”に彼らを訪ねてみた。これから、コーラス入れということで、インタビュー直前まで、3人の綿密な打ち合わせが続いていた。ところが、インタビューが始まると、その緊張も徐々に薄れ、リラックスして彼らのこれからやろうとしている事を、じっくりと話してくれた。


昨年暮のコンサートが出発点


--久しぶりなので、デビュー1年を振り返って、というところから話してもらいたいのですが。
小室 結局、LPの楽曲だけですませちゃったんですよね。アーティスト色を、強く出させてもらったなァって、一番感じました。9曲だけで、1年間よく持ったなァ(笑)。でも、「金曜日のライオン」と「1974」というビデオが、かなり好評だったし、今でもリクエストがあるんです。だから、ビデオを使ったプロモーションっていうのは、完全に成功したと思っています。

--ライヴ数が少なかった、ということは。
小室 2つ理由があって、意図的に少なくしたというのと、コンサートのやり方、形ですね。去年の暮にやったような、ある程度、納得した形のものをやりたかったので。

--個人的にはどうですか。
小室 TM NETWORKのことだけ考えればよかったし、とにかく自由にこんだけやらしてもらったって感じです。

--宇都宮さんは、どうですか。
宇都宮 やはり、グループが公共の場に出る機会が少なかったけれど、ファンの人達がずっと付いて来てくれるんですよ。その辺、すごくアルバムに対しての自信があるんです。でも、ファンの人からの「ライヴを見たい」という手紙が多いですネ。ボクも、割とライヴが好きなんで。最初の頃は、お客に左右されて、自分が舞い上がっちゃったり。それから段々余裕を持って出来るようになって、12月のコンサートが、一番自分を出せました。

--ミステリアスな存在だった木根さんは、この一年間、どうでしたか(笑)
木根 そうなんですよね。デビューしてから一年間、取材や写真とかには出なくて、やっと解禁になりまして(笑)。まず、2人のイメージを大事にし、僕が隠れることによって、その存在を逆に出そうと。TM NETWORK自体も、ライヴをやったりしながら、ある程度のスタンスが出来てきて、サウンドも固定してきたと思うんです。それで、昨年の暮に東京と札幌でやったコンサートが、ある意味で出発点だと思いますね。


音が瞬間移動している


--今回も、レコーディングには、結構な時間をかけてますね。
小室 結局12月10日から始めたんですけど、スタジオの時間というのは、前より少ないと思います。時間が開くと、いい意味で贅肉をとっていけるんですよ。アイディアもたくさん出て来るし。そして、前回以上にセルフ・プロデュースって意味合いが強いです。音に関して言えば、一枚目よりもシンセサイザーにこだわってるんです。ドラムは、今回は生なんですが、シンセを結構前面に出します。前よりも、ロック色が強いかも。バンドの色、サウンドのカラーは、前よりも出ていると思いますが。

--イメージ的には、どういうのを思い浮かべればいいのかな?
小室 音が多くて、ヘッドフォンで聞いていたら、楽しくなる。音が飛びかってると思うし。一番、音の距離っていうのを気にしてるし。ステレオ感覚じゃなくて、360度。音が瞬間移動していると思います。そして例えば、イントロがアマゾンの方の映像かと思えば、すぐに部屋の音像に変わるとか。歌詞も含めて、耳で感じる距離感とか場所の雰囲気とかのシュミレーション的なものは、とても感じられると思うんです。とにかくA面1曲目は「ドラゴン・フェスティバル」と言って、リオのカーニバル風のものですけど、それはビックリしてもらえると思うんだ。これは、12インチも出す予定なんだけど。

--何曲ぐらい、用意してるんですか?
小室 今回は、11曲入ると思います。3曲、木根が書いて、後は僕。詩は、4曲僕で、後は「1974」とか書いてくれた西門香里さん。それと、三浦徳子さん。これは、全く新しいアプローチです。ですが、詩が一番難行しているんですよ。

--やっぱり、曲先になっちゃう?
小室 曲というよりも、“音”ですね。アレンジして音を作って、オケも作って、コーラスも先に入れて、それからメロディーを作るから。最後の最後に、メインのヴォーカルを入れるというか、言葉がくるという感じです。まァ、結構ヴァラエティに富んでると思うんだけれども。5月21にはシングル「アクシデント」が発売されるのと、6月21日にはアルバム『チャイルド・フッツ・エンド(少年期の終わり)』というタイトルで発売予定です。


僕らの時代が、音楽を引っ張っていきたい


--今年は後、どんなことをやろうと考えていますか?
小室 最初のアルバムの発想の時に『サージェント・ペパー〜』みたいなコンセプトアルバムにしたかったんですが、意外に作品集的な色合いになったんです。だから、一曲一曲の世界は独立しているんで、ビデオも60分ものを発売するんですけど、一曲一曲の作品集的にしようかと。いろんな角度のTMを見てもらおうかと思ってるんですが。それに、今年中には、3枚目のアルバムを出そうと考えています。

--今年のライヴの予定とかは?
小室 やるとしたら、秋か冬にはやろうかと思っているんです。  話は変わるんですけど、尾崎豊クンとか吉川晃司クンみたいな、19〜20才くらいの人達が出て来て、ワァーとなってますよね。でもやっぱり、音楽的な部分で引っ張っていくのが、僕達くらいの年代じゃないかなァと思うんです。30才とか、19才のやつらが盛り上がっていて、僕らの年代が何もないというのは、イヤなんですよね。


 これだけ真剣に、綿密に音創りをくり返す彼らの姿勢に好感を持てる。そして、前作「Rainbow Rainbow」で、素敵な夢を軽快なポップ・サウンドにのせて見せてくれた彼ら。その夢を、いろいろな場所と時間に移して、また僕達に見せてくれそうだ。


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