Over The Fanks!!
7.17/18 NAKANO SUNPLAZA
この記事が皆さんに読まれる8月23日、
読売ランド・オープンシアターEASTで、
TM NETWORKの大イベント“TOUR '89 FANKS DYNA-MIX FINAL”が、行われる。
彼らが想う夢を、ここで一つの形にしようというものだ。
それもオーディエンスであるFANKSを巻き込んで。
そんな彼らの意気込みを、この記事から感じてほしい。
中野サンプラザからの帰り、歩くたびにあまりにコツコツと足音が響くので、チェックしたらハイ・ヒールのかかとがなかった。思い出したように、つま先も少し痛かった。当然だね。それからまた、踊りに行った。
7月17、18日。TMネットワークのコンサートツアー“FANKS DYNA-MIX”は、東京でそのファイナルを迎えた。自分たちがFANKSであるということも含めて、FANKSがどういうものであるかを、5千人近いFANKSたちは、体で実感したらしい。彼らは考えることよりも何よりも先に、踊っていた。とても正しい。
カーテン・コールが終わった後で、会場には「Over The Rainbow」が流れた。コンサートの途中、木根尚登のパントマイム(小室哲哉のキーボード・ソロ)のときも、この曲が使われていた。照明の、虹の彼方に。
TMネットワークのデビュー・アルバムは『Rainbow Rainbow』である。こじつけのように思われるかもしれないが、今回のツアーで彼らは、完全に『Rainbow Rainbow』を超えた。最初に口にした、バンドそのもののコンセプトも、やってゆきたいことのテーマも、もうここには必要がない。次にはきっと、彼らは“FANKS”さえも超えてしまうに違いない。強力な呪文を唱え、周囲(まわり)を思うままに巻き込んで。
「東京と大阪は満足のいく結果だった」と、彼らは言う。「僕たちの“SHOW”の内容以外に、チケットがSOLD OUTになったということで。東京では、チケットが買えない人も大勢いたけど、場所によっては“イス6つぐらい、ひとりで使ってた”(笑)なんて所もあったから」
やろうとしていたことを確実にやれた、反省するべき点の少ない内容と、高い評価を与えられた約2時間の空間に、空席があったということは、残念というより「もったいない」感じがした。宇都宮隆は「できれば今すぐにでも、それらの場所に行って演りたい。そうしたら、今度はもっとみんな集まってきてくれるんじゃないかと思う。ホント、うずいてるって感じ。やりたくてしょうがない」と言う。
が、TMネットワークは、常に都市を意識してきたはずだ。最先端であること、先駆者であることは、彼らにとって最も意味のあることのひとつである。広く世の中に受け入れられてしまえば、それはすでに先端ではない。
「やっと、あたりまえの形になった。都市部でしかウケないだろうと、あきらめに近い感じで始めたのに、それがちょっと意表をついて北海道とか、広島とか、びっくりするような所で盛り上がっちゃってね。偏見ですけど、“けっこう地方でウケんのかなー、都会ではウケないのかなー”なんて思ってたんだけど、今回で、やっと本来あるべき形になったと思います。TMネットワークっていうのは、やっぱりもう、都会の匂いをプンプンさせて、少しキザなくらい、イヤミなくらい、情報の遅い所から見ると、近寄りがたいほどの存在がいいと思ってたから」
そして、都市を中心に、彼らに関する情報は広がっていく。
「他より1歩、半歩早いものをキャッチする能力があって、しかもそれが可能な人たちが、まず受信して、それが波紋になって広がる。明星や平凡を見れば載ってるっていうんじゃなくて、そういう伝わりかたがいい。やっぱり、情報をキャッチした人たちが、ちょっと通ぶれるところがないと」
彼らの今の音楽がFANKSで、それを応援する人たちもFANKSであるように、TMネットワークのメンバーを中心とした、この情報伝達システムも、やはりTMネットワークと呼べるかもしれない。
では、キャッチしてほしい情報を以下の通り、伝える。
--今回のステージでは、今まで言葉で聞いてきたことが、全部本当になっていると思いました。
小室 前回もコンセプト通りがんばったんだけど、今回のほうが色がにごってない。いろんな人が入ってきてるんだけど、最初に僕が“この色”って言った色を、にごさないようにしてくれたっていうか。
--宇都宮さんは、ダンスの練習の成果が「今度はあると思う」って言ってた。それも言葉通り。前はどうしても“動いてます”という感じだったし、“Sexyに”という意識がときどき露骨になりすぎて、本当にいやらしい感じになってしまうことがあった。それが、自然になっててよかった。
宇都宮 そうですね。いやらしいときはあったと思います。(笑)あー、今日はいやらしかった。いやらしすぎたなっていうときがある。東京の、特に2日目は、何のいやらしさもなくsexyさが出せたと思う。ステージが続いたほうがいいみたい。日にちがあくと、いらないこと考えちゃうから。
--で、木根さんのパントマイム、2日目の「風船」では、涙が出ました。
木根 ツアーの途中で、“こなしてる”って言われましてね。自分ではいつも一生懸命やってるのに、きのうは良くなかったとか、今日はすごく良かったとか、言われてもわかんないんですよ。同じ気持ちでやってるのに、なんで違うんだって。そうすると、“きのうのは愛情がこもってない”とかね。愛情かあ…なんて、こういうふうにこめれば伝わるのかなって、そこでまた考えちゃって。でも、やっていくうちに、結局お客さんの反応なんですよね。最後に“風船”を放して終わったときに、拍手が大きいとか小さいってことじゃなくて、なんか目に見えない部分でね、あ、イケたかな!?って思ったときは、“今日は良かった”って言われる。で、サンプラザに近くなってきて、だんだんみんなが言う“愛情”みたいなものが、少しわかったかなっていう感じ。何やってるか和からないって言う人も中には、いましたけどね。それは聞かなかったことにして。(笑)
--小室さんは、そういったコンサートの進行を、ステージの上でも常に冷静にコントロールしている、という感じですよね。
小室 意外とさめてるみたいで嫌だけど、僕にはかなり、設計図みたいなのがあって。…設計図っていうと、ちょっと違うかな。お祭りの実行委員みたいなところがあって。(笑)あそこの出しものはあれで、こっちのはこれで、ちゃんと盛り上がってるかなあっていう。管制塔とか、コントロール・センターとか、そういうところが多いかな、すごく。
--自分のキーボード・ソロのときは?
小室 メンバー、オーディエンスとかスタッフすべて含めて、僕が最も飽きっぽいと思うんです。で、僕がいちばん飽きっぽくないとマズイなと思う。だから、たとえばキーボード・ソロにしても、僕が、飽きないうちに終えれば、誰も飽きないだろうというような計算はあります。今回は特に、木根のパントマイムに重ねてたしね。
ウツから、ほとんど目が離せないようにしておいて、それでもフッと横を見ると、それぞれ何かやってるとか、ステージ全体を額ぶちとして引いてみると、また違って見えたりとか。次は何なのか、みんなが探しちゃったらマズイと思う。その前にこっちが、相手を読んで、読んで、裏切る。裏切られて喜んでくれる人たちだからね。
--裏切り続けることで、TMネットワークは裏切らないという。
小室 そういうふうに言えるかもしれませんね。で、よく“ベスト・ライブ・パフォーマンス”とか評される人たちは、大きくふたつあって、ひとつはパワーで押す人と、もうひとつはシアトリカルなものを追求する人。で、TMの場合は、やっぱりシアトリカルなほうに行くんじゃないかと。ピーター・ガブリエルがいた頃のジェネシスなんて、レコードは売れないけど必ずライブは“ベスト・ライブ・パフォーマンス”に選ばれてた。ライブはジェネシスだって言われてた。要するに、人気での“ベスト・ライブ”とは違うところでね。
--でも、とにかく今回のステージには、いろんな要素が入ってた。まったく出しおしみしてないというか。最先端のFANKSをやる一方で、それぞれの音楽的なルーツをチラッと見せてくれたり。生ギターとポータサウンドとタンバリンだけで、3人で並んで座って歌ったシーンは、おもしろかったです。小室さんは、キース・エマーソンしてた。
小室 ポータサウンドなんだけど、ELPとかイエスとか言う人が多い。(笑)どうしてなんだろうね。
木根 僕は、拓郎弾きしてたんだけど。(笑)
小室 もうひとり。キース・エマーソンと吉田拓郎と、誰でしょうね、まん中は。
宇都宮 トム・ジョーンズの腰ってスゴかったね。
木根 トム・ジョーンズ!!
小室 キース・エマーソンとトム・ジョーンズと吉田拓郎。(笑)バラバラですね。最終日にはポール・モーリアも出てましたからね。(笑)
--ところで、男の子のFANKSがふえてきたことについて、たとえば宇都宮さんは、男の子向けの“Sexy”を、どういうふうに考えてるんですか。
宇都宮 女の人に対するのと、まったく同じ。たとえば、ロッド・スチュワート。彼は多分、女性のことしか考えてないと思うんだけど、それを男が見てもカッコイイと思うから。
--女の子の黄色い声については?
小室 最後にスティック投げて、コトンって音がしたら悲しいですもんね(笑)うれしいです、やっぱり。
最後の曲の「ELECTRIC PROPHET」は、ここからまた、話が始まることを暗示していた。“Hello Again”。今夜、共有したものは、この2時間で、この場所で、終わってしまうものではないと。
「終わった瞬間に、次への期待が高まるようなものにしたい」
そして今、よみうりランドEASTへの期待がギリギリまで高まっている。
「音響的には、とりあえず4チャンネル。客席の後ろに、全面と同じくらいの量のスピーカーを置いて、曲によってはかなり回るようにしたいと。スピーカーの所には照明もセットして、音と光りが3方向から。技術的なことじゃなくて、体で音楽を感じられるように」
そこでもまた、次のツアーを予測させてくれるはずだ。必ず。
また、アルバム『GORILLA』の中から、宇都宮が今、最も気に入っているという曲、「GIRL」が、シングル・カットされるが、これも、「次の7インチ・シングルのためのきざしをそろそろ」であるという。「11月の中旬ぐらいには、まったく新しい曲で出そうと思って、今作ってる。それが多分、誰もが待ち望んでるシングルになるんじゃないかな。まだ曲もできてないのに、売れるんじゃないかって思ってる。ここまで計算してきてるから、それもなんとかなるんじゃないかって」
デビューしてから、ここまで来るのは早かった?と、聞いてみた。「やっぱり、遅いと思ったほうがいいんでしょうね」と、小室哲哉は少し考えて、答えた。だからといって、あせってるわけじゃないんでしょ。「うん、でもやっぱりあせってる。あせる気持ちというのは、ある」
ツアー中の金沢で、3人で散歩をしていて“ゆうせん”の事務所を見つけた。行ってみようかということになり、結果、レコードを1枚かけてもらったという。気まぐれに、自分たちでプロモーションしてしまう、この人たちは、素敵におかしい。
近寄りがたい遠い存在と、図書館で会ったら声をかけられるような雰囲気を、同じぐらいずつ持っている。彼らの作るものは、受け手の反応までを計算する一方で、トラブル以外のアクシデントを、微笑みをもって受け入れる。
“レコーディング・アーティスト”という肩書きも、“ライブ・バンド”という呼び名もいらない。その両方のすき間を、限りなく0に近づけながら、より先鋭に、より繊細に、より大胆にTMネットワークであることを続ける。多分、飽きることはない。