今回は、スペシャル対談の第3弾。ゲストは、ハウンド・ドッグの炎のキーボーディスト、箕輪単志。たまたま、お互いにレコーディング中で、スタジオやエンジニアも一緒とあって、音楽の話や楽器の話で大変盛り上がりました。終わった後、二人でレコーディングの技術的なことで、話し合ってました。
大友が「ガ〜ッ」って唄いだすと、皆でタメ息ついて、楽器を減らそうかって。(箕輪)
KXをチョッパー・ベースのように、16のリズムを刻んで弾いたりします。(小室)
小室 こんにちは、よろしくお願いします。
箕輪 こちらこそ。いやぁー、緊張しちゃうなァ(笑)。
小室 まず、箕輪さんのキーボード歴とか、音楽歴というのを、少しばかり。
箕輪 音楽って、両親が、いつもラジオをつけっぱなしにしていて、何か自然と耳に入って来てたんですよ。初めて買ったシングルは、小学校2年の時にスコット・マッケンジーの「花のサンフランシスコ」!
小室 うん、流行したよね。(笑)でも、随分早いなァ。楽器は?
箕輪 4才の時にオルガン教室に通い、5才からはピアノを習い始めたんです。大体、8年くらいやってたのかな。で、中学に入ってからは、小学校の時に友達と遊べなかったウップンが出て(笑)、剣道部へ入っちゃいました(笑)。受験で、3年になって運動の方はやめて、ビートルズとか簡単な曲を弾き語りでやってました。その時、コードを初めて、知ったんです。
小室 じゃ、バンドというのは…。
箕輪 高校入ってすぐです。今の若い人達に比べたら遅いですけど。
小室 そうですね。でも、ハウンド・ドッグに入るまでは早かったですね。幾つか、バンドを経てですか。
箕輪 はい。ドッグに入るまで、ベースをやってたんですよ。(笑)ビートルズのコピー・バンドで。「Let It Be」の時なんかは、ピアノを弾いたり。後は、ディープ・パープルやユーライヤヒープ、エマーソン・レイク&パーマーとか、やってましたね。
小室 その頃、オルガンとかを?
箕輪 小室さんと同じ世代だもの、絶対にそうなっちゃう。
小室 僕も、高校入ってディープパープルをやり出して、幾つかキーボードのいないバンドでやってたんですよ。でも、そこからディスコ系のものが入ってきたんだ。コモドアーズとか、クール&ザ・ギャングとか。
箕輪 渋いですねェ。皆で“コレ”(踊るマネをする)を、やったりして(笑)。
小室 そうそう(笑)。皆で振り付けて、バンプとか取り入れてやってました。箕輪さんは、ロックン・ロールをやり出したのは、ハウンド・ドッグに入ってからですか。
箕輪 ええ、聴くには聴いてたんですけど。大学1年の時に、大友にドッグに入らないかと言われてからです。いざ、ああいうピアノを弾こうとすると、難しいですね。大友に尻を叩かれて、だんだん覚えていきましたよ。あの頃、ほとんどワン・パターンで、アドリブがきかなくて、よくプロをやってたなァと思いますね。(笑)。
小室 全然シンセサイザー使ってないんですね。
箕輪 いえ、ピアノとオルガンを弾けるようになってからというのがあったんで。
小室 何かポリシーがあるのかと。
箕輪 別に意固地じゃないんです。(笑)2ndアルバムを作る時に、後藤次利さんが手伝ってくれて、その時にシンセの使い方とかを教わったような感じです。最初は、プロフェット5をいじり出しまして。
小室 最初にプロフェット5だなんて、いいですね。
箕輪 だから、後でその楽器の重大さに気付いて。(笑)
小室 箕輪さんは、ステージ・アクションがすごいんですよね、パフォーマンスというか。
箕輪 いえ、おとなしいもんです。(笑)あの辺の影響を受けたといったら、エルトン・ジョンです。 小室 ああ、エルトン・ジョン!
箕輪 エルトン・ジョンって、すごいカッコして、ハゲだし足は短いし、デブだし(笑)。それが、あんなきれいな音楽を作るなんて、すごい好きでね。それと、人と同じことをやりたくないっていうのもあって。小室さんも、よくMTVで見るんですけど、立ちながらよくあれだけ弾けますねェ。
小室 最初からそうですから。(笑)
箕輪 ショルダーで、あれだけ弾ける人っていうのは、いないですよ。リズムが刻めないもの、僕なんて。(笑)
小室 「ff」は、箕輪さんの曲ですよね。間奏とか、クラシックの影響があるのかなァと、思ってて、さっきの話で納得したんですが。
箕輪 あるみたいですよ、モーツァルトのラインみたいなのとか。バッハほど細くなくて、きれいなメロディ・ラインが。
小室 僕なんか、バイオリンをやってたので、クラシックのフレーズが出て来ちゃうんですよ。ロックを聴くぐらい、メンデルス・ゾーンが好きだったから。
箕輪 ハイ、ハイ。あの一番はいいですね。僕と同じ趣味みたい。(笑)
小室 「ff」なんかも、音の重ねとかすごい凝ってるし。
箕輪 ええ。和声の3つ、各々全部違う音色で録ったりとかしてます。こういう音を重ねていくのでも、ついクラシック的なものが出てきますよ、ウラ・メロつけるんでも、ボーカルとうまく対比させたり。
小室 そうですね。箕輪さんも、ロックンロールとクラシックが、うまく出て来るんですね。
箕輪 小室さんなんか、わかってくれるんですけど、他の人は僕に対して、そんなインテリジェンスみたいなのを感じてくれないんですよ。(笑)だから、小室さんみたい専門家の人がわかってくれたら、それでいいと思って。(笑)
小室 僕なんかも、キーボードの人の地位を上げようと、ずっとやってきたというのもあるんです。だから、キーボードで派手にやってる人と、話をして皆に知ってもらいたいなァと思うんですよ。
箕輪 小室さんは、ハモンド・オルガンの本物を持ってるって聞いたんですが。
小室 ええ、L型を持ってます。
箕輪 L型って、ビブラートが入っていて、ビョョ〜〜ンって?
小室 そう。だから、いつも倒したりとかわざとやってましたけどね。
箕輪 鍵盤にさァ、刀とか刺すでしょう。そして動かすと、音程が変わるって本当ですか。L型ってそうだと聞いてるんですけど。
小室 あれは、下にコイルみたいなのが通ってるんです。
箕輪 アッ、それを刀で揺らすんだ。
小室 で、ピッチやスピードが遅くなるんですよ。モーターでゴムみたいなのが回ってるから、それにひっかかると、スピードが遅くなると。
箕輪 そこまで、刀が刺さるんだ。オレ、それだけがわかんなかったんですよ。また1つお利口になった。(笑)
小室 ライブだと、ギター2台だからパワーとか、大変だと思うんですけど。
箕輪 ええ。ギター2本鳴ってる時は、ピアノの高域しか使わないとか。この辺、TMとはチョット違うと思うんですよ。シンセでも、非倍音というか“カキン”という音とか、なるべく暑苦しい音にならないようにと。
小室 キーボードの音って、バラードの時しか目立たないですからね。(笑)
箕輪 わりと最近、うちのメンバーも理解があって、イントロがキーボードとか、目立つところに来させてもらってるんですよ。『SPIRITS』っていうアルバムが「ff」とか、ああいうサウンドで、キーボードが多かったんです。でも次からは、ギターをまたメインにしてやろうかと、今、録ってます。
小室 昨年の、雨の中の西武球場のライブは、すごかったですね。僕なんかも、アンプの真空管が客席まで飛んでいったり、鍵盤を折ったりしましたけど。(笑)
箕輪 もう、雨がザンザンで、4台のうち残ったのは、CZだけ。ピアノは、鍵盤が雨を吸って膨れて、1コ押すと3つくらい一緒に鳴っちゃったり。(笑)大変でしたよ、グッグッと元に戻したり。(笑)
小室 鍵盤が折れたら、アロンアルファを出してくっ付けたり。(笑)
箕輪 あれは、いいもんですね。それが効かなくなると、うちはそえ木をします。(笑)しようもない時は、使わない鍵盤と差し替えたりとか。(笑)
小室 じゃ、次のLPはいつ頃?
箕輪 晩夏!でも予定は未定ですからねェ。(笑)TMも、今、録ってますよね。
小室 うちも遅れちゃって、6月4日発売です。それでは、アマチュアのキーボーディストに、何か一言アドバイスをお願いします。
箕輪 最近、楽器が必要過多なんじゃないかと思うんです。好きなのが1台あったら、それを大事にして、自分のものにするように、心がけた方がいいと思う。弾く側と楽器の関係を大切にするというか。ポンポン捨てられたら可愛そうですよ。そうすると、必然的に音楽にも愛情が生まれてくると思うんです。僕なんか、いまだにDX7を舞台で使ってませんから。安いアナログシンセで、デジタルにどこまで迫れるかってね。いい意味での、執着心を持ってもらいたいですね。
小室 エフェクターは?
箕輪 これも、恥ずかしいくらい少なくて、ディレイと、コーラスの2つだけです。
小室 そうですか。じゃ、今日はどうもありがとうございました。
箕輪 いえいえ、こちらこそ。これからも、いろいろと教えて下さい。
とにかく、イメージが変わりましたね箕輪さんという人は。どう変わったかというと、優しい、知的、温厚。あの狂乱のステージ・パフォーマンスからは連想できない部分を僕は見てしまったからです。ハウンド・ドッグというバンドのイメージとはまた違う。そして箕輪さん本人のキャラクターともまた違う。すごいアーティスティックな部分を、僕は少し見れた様な気がします。あと、大友さんの大切なブレーンであることも実感したし、これからも箕輪さんの動きは、注目していきたいと思ってます。でも、一番嬉しかったのは、僕のプレイとか、TVで見てくれているっていうことかな。箕輪さん、またおもしろい話、聞かせて下さい。
1959年12月17日、宮城県石巻市生まれ 4才の時からピアノを始め、ビートルズやローリングストーンズなどに影響を受ける。18才の東北学院大学に在学中、その大学の先輩の大友康平の誘いで、ハウンド・ドッグに加入し、炎のキーボード・プレイヤーとして大活躍。そのステージ・パフォーマンスは素晴らしく、他のメンバーも圧倒する今日この頃。
●小室哲哉プロフィール
1958年11月27日、東京生まれ。3才からバイオリンを始め、クラシックの英才教育を受け、17才からプロミュージシャンとして活動。上田正樹、バウワウ、大江千里など、様々なアーティストのレコーディングやライヴに参加。'84年、TM NETWORKというグループを率いて、現在の音楽シーンに登場。