'88年4?月号

copy:関陽子
photo:管野秀夫


Beyond The Time
時間(とき)を超えて
TETSUYA KOMURO SPECIAL INTERVIEW

●1月1日シングル・カットの「Resistance」に続いて、3月5日、ニュー・シングル「Beyond The Time」をリリースするTM NETWORK。“KISS JAPAN”そして“DANCING DYNA-MIX”へとつながる明日を。


1984

 TM NETWORKがデビューして、初めてのインタビューを行ったとき、小室哲哉はその“プロジェクト”がやろうとしていることの“コンセプト”について、「サウンドとビジュアルの融合」という言葉を掲げた。ライブはやらず、もっと完成された形で、TM NETWORKを感じさせたいということだった。“見せる”とか“聞かせる”といった次元を超えて、受け手が驚き、感動し、発見してくれることを望んだ。
 しばらくして、彼らはやらないはずだったライブを、200人ほどの観客の前で行った。それは、小室哲哉の理想とは、かなりかけ離れたところに始まり、多分そのままの状態で終了したように私は思う。
 TM NETWORKというプロジェクトが、興味と好奇心を刺激するのは、彼らが常に可能性というものの最上限にトライしているせいだ。コンサートの会場が大きくなれば大きくなったぶんだけ、お金がかけられるようになれば、かけられるようになっただけの仕掛けを、彼らは考え、実現してきた。そうでなければ、彼ら自身が飽きる。そして、彼ら自身が飽きてしまうまで、観客は飽きることがない。
 “KISS JAPAN”は、いわゆる体育館規模のシステムを、ホールに凝縮したものだといっていい。スター・ライト、海外から迎えたオペレーター。それでも「新鮮さを保つために」曲順を変えたりもしながら、TM NETWORKのジャパン・ツアーは進行していく。

 「すぐに飽きちゃうんじゃないかなって思ってたけど、一応できてる。いちばん大きな理由としては、客席が埋まってるっていうね、それがいちばん大きいと思う。やっぱりその充実感というか、期待に応えなきゃいけないっていうことを、すごく感じる。来てくれてる人たちの気持ちとか考えると、飽きるなんてね」

 と、小室哲哉は言う。が、だからといって、そこにとどまらないのがTM NETOWORKのTM NETWORKたるところだ。期待に応える以上に彼らは、期待を裏切ることに力を注ぐ。
 3月、彼らは“KISS JAPAN DANCING DYNA-MIX”と題して、体育館規模でのコンサート・ツアーを行う。今度はどんなふうに応え、裏切るのか。

 「ツアーの日程がほぼ決まったと同じくらいに、ピンク・フロイドが来日するっていうのが決まって。それが、同時期にやっぱり体育館規模でやるっていうから、ちょっとね……。日本で体育館ツアーっていうのは、思っててもなかなかできないことだから、それがやっとできるようになったっていうのは、それなりにTMはすごいなと自分でも思ってても、コンサートに関していちばんスゴイなって思ってるピンク・フロイドが来ちゃうっていうのは……。もう、未だに憧れの方が強いからね。ああ、きっと勝てないなーって。負けるに決まってるからね。(笑)そういう気持ちはすごくある。何をやっても無理だよ、みたいな。
 僕はまだ実際には見たことがないし、話しか聞いてないんだけどね、でも今回の話を聞くと、ベッドは爆発するし、豚は飛んでくるし、スター・ライトが車になって頭上を飛んでくるとかね。それがひとつだけでも十分すごいのに、アンコールでは全部いっぺんにやっちゃうっていうし。(笑)
 だから、TM(うち)は今度スター・ライトが18基から少し増えるかもしれないって言ってるんだけど、全然そういう問題じゃないね(笑)」

 究極のライバルともいえる存在に対して、潔く負けを認めてしまう。

 「だから、もう一度1から出直そうという気持ちがあってね。初心に帰ってできる限り今までにあるものでね、それでみんなをびっくりさせられるような世界(もの)はないかというふうに考えてる。
 タイトルは、とりあえず“DANCING DYNA-MIX”っていう言葉を使ってつけたから、そこらへんを一応コンセプトにしてね。あらためてダンスを主体にした内容にしちゃおうかなとも思ってる。でも、それでもやっぱりピンク・フロイドじゃないけど、スペクタクル的な発想で、驚きの連続でSHOWを展開して、知らない間に終わってしまうというものにするとかね、どっちにいったらいいのかなって悩んでるんです。
 他の人ならいいんですよ。たとえばブルース・スプリングスティーンとかね、全然違うタイプの人だったら。ただ、ピンク・フロイドに関しては、TMはある種、同じ道を行ってるグループだからね。音の内容を別にすれば、たとえばモトリー・クルーもそうだし、もしかしたらアリス・クーパーとかそういう人も一緒の仲間に入るかもしれない。見せるという部分で。
 とにかく、できる限りでびっくりすることっていうかね。そういうことを今、考えてる。本当にまだ机上の空論だけど」

 とても好きな考え方が私にはいくつかあって、その中のひとつに「“考えられないようなこと”は考えられる」というのがある。「こんなの、できっこないよね」と言いながら、アイデアはしっかり生まれているのだ。ただし、それを実現させるには、さまざまな条件を満たす必要が生じてくる。

 「スポンサーが決まってくれればいいんですけど」と、彼は苦笑する。「“KISS JAPAN DANCING DYNA-MIX”の頭文字はKDDだから、KDDがついてくれればいいな」と。


1988

 New Year's Dayに「Resistance」を、シングルとしてリリースしたかと思うと、3月5日には早くも次の新しい曲が用意されている。
 「Beyond The Time」。3月に公開されるアニメーション映画、『機動戦士ガンダム〜逆襲のシャー〜』のエンディング・テーマがそれだ。

 「一応、絵コンテとか見せてもらって。宇宙船が宇宙(そら)の彼方へ消えていくようなシーンにこの曲が流れて、タイトルとかが出てくるっていう感じですね」

 ガンダムの作者にも、もちろん会った。その人は、この映画の監督でもある。

 「すごく不思議な人だった。不思議っていうのは、やっぱり童心っていうのかね、さすがにああ言うキャラクターを生んだ人だから純粋なんだなって思うんだけど、一方その人が作り上げたものは、すごく理論的で、そういうパラドクスみたいな不思議さがある。
 “ガンダム”の世界は、今の現実の世界よりも、もっと入り組んでるんですよ。国家の組織や、いろんな階級や、争いへのいきさつなんかがね。そのへんが実に理論的なんです。で、子供達はその世界を、現実の世界と同じぐらいに身近に感じてるんだよね」

 子供たち、あるいは大人でもそのファンにとっては、ガンダムという存在はひどく大きい。そこにTM NETWORKという新しい存在が加わることで、「カップリングに対しての感動とか、やっぱりこういうのはTMがいちばんだねっていうふうに思ってもらえたら」それは、うれしい。

 「結構、苦労しましたね。監督は生の弦の音とかにすごいインパクトを感じる人で、基本的にシンセサイザーをあまり評価していないっていう。ま、僕は一応バイオリンをやってて、生の音には敏感だっていうこと、クラシックが好きだっていうことでなんとかなったんだけど。
 今までは作曲にしても何にしても、僕の個性みたいなものを、みんなが事前に知っていてくださったところがあって、その個性にあてはまるものを希望されてたけど、その監督の場合はそうじゃなく、まったく知らないところから始まったのね。だから、デモ・テープの段階、リズムの段階、シンセ・ダビングの段階……というふうに何回もその過程を聞いてもらって、それでもずーっと、納得してもらえなかった。最後の最後まで、どっかひっかかるところがあったみたいで。ただ、トラック・ダウンが終わった段階では、百パーセント納得してくれたと思う」

 初めて映像に歩みよった、という。

 「今までは音先行の映像っていう部分がすごくあって。前に『バンパイア・ハンターD』っていうのをやったときも、絵の編集は音を待ったんですよ。音を待って音のイメージでやってくれた。でも、今回は映像に、とにかくはまることだけでしたから。だから、TM NETWORKなんだけど、いつもとはちょっと違う。すごく重い……重い感じがする曲だと思う。サウンドにしても、ラフの歌にしてもね。最初はもっと、たとえば『スターウォーズ』とかの戦闘シーンに近い、ああいうファンファーレ的なイメージがあったんだけどね」

 TM NETWORKには、TM NETWORKを主人公にしたストーリーがあった。例の、クリスマスの日に地球に降り立った3人が、やがて……という物語である。私たちは無意識のうちにもその物語を頭の中に置き、そのうえで、TM NETWORKの音楽を聞き、イメージを広げているはずだ。
 それが、今回はガンダムというまったく別のストーリーが、“ビジュアル”の要素を占めている。これは、彼らが最初に掲げた「サウンドとビジュアルの融合」の新しい形である。

 「それだけ違うことをやったかいがあるでき上がりになったらいいなって期待してる。歩み寄った部分の音楽と、映像が合ったらいいなって。
 でも、本当はサントラを最初から最後までやりたかった。オープニングから、エンディングまで。そうじゃないと見えにくいというのがあって。だから、そのエンディング・テーマ一曲の中だけでも、ガーンって入る第1音っていうのには気を使って、時間もかけた」

 TM NETWORKにして、TM NETWORKではない。『humansystem』のレコーディングを終え、L.A.から帰る飛行機の中で書かれたというこの曲は、彼ら自身にとっても、ひどく興味深い作品になっている。

  *

 “KISS JAPAN”というコンサート・ツアーを続けながら、彼らは「Beyond The Time」を作った。レコードを作る作業と、ステージの上でそれらを表現する作業とは、どんなバランスを保っているのだろうか。

 「そのバランスがいちばんわかるのがね、スピーカーから出る音に対しての耳の感覚なんですよ。レコーディングをずっとやってて、それでホールのステージに立ってはね返ってくるライブの音には、最初はすごい違和感がある。たとえば生ギターの音をサンプリングして、ポンポンポンって弾いたときにね、そのポンっていう音が風圧になっちゃうのね。ホールだと“ポン”っていうのが“ドン!”っていう音になっちゃう。それはやっぱり、あれだけのスピーカーだしね。あんなのスタジオでやったら、みんなふっとんじゃうくらいの音だから。
 だけど、レコードでは生ギターのポロンっていう音は、生ギターのポロンっていう音としてそこらへんから聞こえてくるでしょ。で、ああいう音だねとかいって判断するわけで。だから、すごい違和感がある。最初はステージで聞く音にでも、それを10カ所ぐらいでやると、弾いたのが向こうの壁にはね返ってドーンと来るその音が気持ちよくなって、スタジオにたまに入ると“なんだちっちゃいな”っていう感じになって、スタッフが耳をおさえるくらいにデッカくしないとわかんなくなったりしてね。耳っていうのは、1週間くらいで慣れちゃって。環境に適応しちゃうっていうか、順応性があるからね。今のところは、耳がライブの音に慣れちゃってるから、当分はこっちの音で聞いていたいなって思ってる。だから、もし今レコードを作ったら、すっごいライブな音になると思うよ」

 「そういうのって、多分みんなもあると思う」と、彼は言葉をつなげた。「たとえば、エコーのすごいレコードばっかり聞いてると、たまに乾いたシンプルな、目の前で音が鳴ってるような音楽が聞きたくなる。で、そればっかり聞いてると今度はまたしっとりした、広い感じの音楽が聞きたくなる」

 もしかしたら私たちは、新しい曲「Beyond The Time」に、TM NETWORKのまったく別の一面を見つけることになるかもしれない。もしかしたら、最初は慣れない音に感じるかもしれないその音楽は、映画といっしょになって初めて、視覚的にも新鮮な、ひとつの世界を作るだろう。


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